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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2003.12.03

第13回 11月の日々 -様々な授業が-

こんにちは、須藤 生です。どんどん日が出ている時間が短くなっているストックホルムです。すでに16時には真っ暗になってしまいます。さて、学校生活の方は製作だけではなく色々な課題や講義が始まりました。ただ物を作るだけではなく、幅広い知識、経験を学ばせる芸術大学としての様相が現れています。

前回の最後で突き板を接着したテーブルの天板です。中心角15度の24枚の突き板を並べて一つの円としています。完璧に接着が出来たと思っていたのですが、実際は中心部に少しだけ隙間が空いてしまいました。ここを密着させるのはかなり難しいそうで、この段階で、この状態ならば上出来だそうです。この様な文様の物は、古い時代の物でも同じような悩みを抱えていたようで、中心部に違う模様(例えば星やダイヤ)などを埋め込み隠していたそうです。


強い接着力を持つ現代の接着剤の場合、木の収縮による動きをかなり抑える事が可能ですが、接着面が狭い為に強い接着力を得られないこの部分は、どの様に治す(隙間を無くす)のでしょうか?
実は、水分とアイロン(実際は蒸気と熱)を使用する事で、この部分の木を膨らませて密着させます。木のへこみ傷などを修復する時に行うテクニックですが、半信半疑でこの中心点で試してみたら、良い感じに密着してくれました。


平面加工をする機械(手押し鉋盤)を、新規で学校が購入しました。古い機械は家具デザイン科の機械作業室へ移り、そこにあった古すぎる機械は売りに出すことになりました。
新しい機械を3階まで持っていくには、非常に苦労する羽目になりました。貨物用のエレベータはあるのですが、なんと機械が3センチほど長く、そのままではどう考えても運び上げる事が出来ませんでした。結局、一部分を分解し、片側の定盤を外して解決しました。


木目の向きが異なる突き板の境に溝を掘り、そこにパリサンダーの突き板をはめ込んでいきました。突き板は約0.8ミリなので、溝の深さは0.5ミリくらいが理想です。溝幅4.5ミリにぴったりと合う一本の突き板をナイフで切り出しました。曲げながら少しずつ埋め込んでいくので、木目は最初と最後の点以外は全て繋がっています。


溝に木を埋め込んでいく作業は想像以上に難しく、とても苦労しました。大丈夫だろうと思い、練習をせずに本番の作業に取り組んだのですが、結局は練習用の板にも表面塗装の実験が出来るように、同じように溝埋めをしました。しかし、こちらの方が出来が良く、要領も分かってきたので素早く作業できました。それと比べると最初に作った方はどうも納得がいかず、もう一度同じ場所に溝を切り直して加工しました。3度目だけあって、今度は綺麗に埋め込む事が出来ました。


なぜ練習用にも同じ様に溝を掘り、パリサンダーの突き板を埋め込んだのでしょうか? 微妙に出っ張っているパリサンダーの木を紙ヤスリ、スクレーパー等で削るのですが、その時に出てくる粉が白樺の突き板を汚してしまいます。後から取り除くのは困難な為に何らかの対処をしないとなりません。

まず、ギター製作科の先生から教わったのは、パリサンダーを削りつつ、同時に掃除機で粉を吸い取ってしまう方法。なかなか効果的ですが、吸い込まれる前に木目内に入り込んだ粉は上手く吸い取れないので、後処理が必要のようでした。

そして、家具修復科の先生から教わったのは、本来は塗装仕上げに使用するシェラックを、あらかじめ薄く塗ってしまう方法でした。軽く表面を覆うことで、粉が深く入り込むことを防ぎます。その効果は絶大で、掃除機吸引と組み合わると綺麗に加工できました。

ついでに表面塗装の実験も行いました。アルコールに溶かしたシェラックを薄く数回(数層)に分けて塗りました。磨き上げると見事な輝きで、見る角度によって天板が異なる色(光)を発しました。
ただ、繰り返しますが、これは練習用の天板です(笑)


さて、メインの天板です。裏面の外側を斜めに削り落としました。こうする事で、実際の厚さよりも薄く見える視覚的効果が現れます。削り落とした面には、やはり白樺の突き板を一枚ずつ貼っていきます。


隣り合う接着面はピッタリになる様に貼るのですが、圧着するときに気を使います。接着剤が入っている状態で、圧のかけ方が良くないと、突き板ごと滑って移動してしまうのです。完璧ではありませんでしたが、満足できる出来には収まりました。何よりも一日で24枚を貼り終える事が出来たのはちょっと自信になりました。


木工作業から離れて立体造形週間がありました。まず月曜日。どう見てもゴミ捨て場から持ってきたと思えるホコリだらけの物たちをスケッチ。毎回、テーマ(光と影、丸三角四角、空間など)が与えられて、各々の解釈で描きました。


午後は布の下に隠されている物を手で触りながら感じ取り、描く課題でした。15分ごとに隣に移ります。中にある物は形状に全く意味の無い物から、動物の骨や、貝殻などまで様々です。


火曜日。モデルを見ながらダンボール紙を使用して表現する造形課題。1ポーズ50分くらいで複数を制作しました。人それぞれ様々な表現手法をとっており、面白かったです。写真はその日最後の講評風景。


水曜日は今度は木を使って表現する課題でした。工房内にある木片、棒や突き板を使用しました。


木、金曜日は粘土を使用する課題でした。椅子に座っているモデルを正確に形作ります。一週間の集中トレーニングでしたが、皆、とても充実した時間をこなせたようです。


さて、家具製作科の2年生の椅子制作はどうなっているのでしょうか? ウェグナーの3本脚の椅子は段々と形が見えてきました。彼は合板を作る過程で大きな間違い犯してしまい、もうひとつ合板を作り直しました。
誰でも製作中に何らかのミスをします。しかし、家具製作科の先生は“間違い”という言葉を使わせてくれません。そこから多くの事を学び、それを修正する技術、同じ事を繰り返さないように糧とすることが求められます。


1年生の製作中の机です。ノルウェー出身の女性が製作しています。彼女は家具を大量生産する工場で働いていた経験を持っていて、非常に素早く作業をします。僕が木工を始めたのと同じ21歳でこれだけの事ができるのを見ると驚きます。適切な環境、しっかりした技術を伝えられる良い先生がいることは、物作りをする中でとても大事な要素です。


彼はスウェーデンとノルウェーの国境近くにある学校で木工を学んでから、マルムステン校を受験しました。このように様々な経歴の者が校内で学んでいます。彼は機械を使いながら可能な限り完璧に作る事に時間をかけています。日本では手作業だけで物を作ることが良い事だという風潮があるようですが、機械をひとつの道具として考え、手道具のように良好な状態に保ち、その機械で出来る最高の加工を知る事もとても重要です。


天板の縁になる白樺の板を貼り始めました。長さ約2.8メートル、厚さ3.5ミリの板を曲げながら接着します。一度に全てを接着する方法も検討しましたが、写真のように15センチ毎に接着をする方が綺麗だと判断しました。ただし、強い接着力が発生するように最低1時間は圧を加えるので、一回りするまでかなり時間がかかります。これを2周(2層)行うことで、7ミリ厚の縁にします。


表面塗装についての講義が行われました。完成間近の僕たち向けの内容です。


ストックホルムにあるスカンセンへ出かけました。ここはスウェーデンの歴史、文化を保存している野外博物館で、僕たちは1900年代初期の木工房を再現している建物を訪ねました。


ここでは再現するだけではなく、当時そのままに仕事が出来るようになっています。スカンセン内の家具を作ったり、修復もしています。


機械も当時と同ように動きます。1つの動力からベルトを使う事で、他の機械の動力としています。


前回と比べると報告する事柄は少ないですが、ひとつひとつの作業、経験はとても勉強になりました。机製作の締め切りは年明け初日。ということは年末に一時帰国する予定の僕は、その前に完成させないといけません。次回のレポートで完成した机をご覧頂けるはず・・・

それでは、ヘイドー(スウェーデン語でさようなら)!

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!