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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2007.07.04

第55回 ストックホルム卒業展示会巡り (前編)

こんにちは! スウェーデンの須藤です。現在、ストックホルムは夏を謳歌しています。つい先日が夏至だったため、夜23時過ぎまで明るく、3時くらいには夜が明けてしまうほどです。冬にはこれが逆転するわけですが、短い北欧の夏を楽しみたいと思います。さて、スウェーデンの学校では5月から6月にかけてが年度末になります。そこで今回は5月にストックホルム各地で開催されていた美術校の卒業作品展示会を見て回りました。訪れた学校は全部で5つ。どの学校もその分野ではエリート校と言われるだけのトップスクールで、非常に見応えがありました。ごゆっくりご覧ください。
注:通常は作品名と共に作者名を書くべきなのですが、今回は割愛させて頂きます。子供を連れて訪れていたために、残念ながら細かくチェックする事ができませんでした。雰囲気などを楽しんで頂けましたら幸いです。

まず最初に紹介するのは王立美術大学。王立と冠するだけあり、非常に評価の高い学校です。特に絵画の分野で有名です。


会場はストックホルム最高と言っても良いほどの場所。


芸術アカデミー内で作品展示会が行われていました。ノーベル賞を選ぶのが科学アカデミーと言うと、権威が分かりやすいでしょうか。


オイルペインティング(油絵)


先ほどと同じ学生による作品。筆の流れが見て取れ、美しいです。


広いスペースを贅沢に使った音響作品。


様々な鉱物を研究したようです。


権威ある会場であるだけではなく、純粋に展示会場として見てもここは素晴らしい場所です。照明が無くとも、非常に綺麗な光が室内に入って来るのです。照明に苦労した経験のある方ならすぐに分かると思いますが、これは大きな利点です。


壁面を大きく飾っている作品は、コンピューターを通して拡大しているようです。


写真の様な表現を感じます。


様々な大きさ、素材の額を用いて、これまでの学業期間中に描いてきたスケッチ画が展示されています。アーティスティックな印象が強い素晴らしい作品たちでした。


この芸術アカデミーの図書館はちょっとした資料館としても有名です。


次に紹介するのは、スウェーデンで一番よく知られている美大、コンストファック(国立美術大学)です。900人(本当にこんなにいるのかな?)もの学生を擁するマンモス校でもあります。数年前に移転し、郊外の新しいキャンパスへ移ってきました。


会場に入ってすぐ。広いスペースに驚きました。羨ましいです。


入り口を入って最初に目に付いたのがこの作品。インパクト大で、メディアでも大きく紹介されていました。


個室の中。床に寝そべって鑑賞するようになっていました。


そして眼前には、この様な刺繍が施された作品が。


奥の別棟では、真っ暗な中に作品が並べられていました。


絵(グラフィック&イラストレーション)科の学生作品。


あんまり僕の趣味ではないのですが、評判が良く大きく扱われていました。


素敵な見せ方(魅せ方)ですね。


インテリア家具デザイン科の作品たち。僕の専門でもあるので楽しみにしていたのですが、今回は少々、期待はずれに感じました。工業デザインとしては良いのでしょうが、美大卒業作品として見ると、造形力や、細部へのこだわり、要するにアートとしての強さをあまり感じませんでした。僕の頭が硬いだけなのかもしれませんが。


その中でも面白いデザインだったのが、この収納戸棚。


ガラス陶芸科には、完全に自分の世界を持っている学生の作品がありました。


綺麗な器です。花器でしょうか。


こちらは壺。テープ状の物はどうなっているのでしょう。


同じ物がこれだけ並ぶと壮観ですね。同クオリティーでたくさん作る苦労が感じられます。コンストファックは非常に大きな学校ですが、多くの学生同士で刺激しあえる環境はなかなか魅力的です。


次は私が在籍するカール マルムステンCTDです。この学校は木工技術に秀でた学生が集まる事で特に有名です。


全校生徒が60人に満たないため、展示会では卒業生以外の作品も並べられています。とはいえ、マルムステン校の特色とも言える、高い造形力を持った作品ばかりです。この机は天板が左右に開き、仕切りの入った内部が現れます。


こちらはゲームボード。チェスとバックギャモンが楽しめます。


マルムステン校の中で一番新しい家具デザイン科からの作品。


プロトタイプとはいえ、作り込まれた物ばかりです。工業デザインというと、どうしても細部が甘くなりがちなのですが、作品としてのこだわりが感じられます。


積み上げて本棚や、小物入れとしても使えそうです。


普段は学生用の食堂が、展示会中はカフェになっているのですが、そこに見慣れない物がありました。柄はペイントではなく、染色した突き板を使った象眼になっています。


DJブースとして使えるように作られていました。


家具の生地張りをするコースの作品もありました。これらは1年生が張り替えた椅子たちです。


3年生はまだ職人試験の最中でした。このソファーを作っている学生は残念ながら体調を崩してしまったらしく、作業がストップしています。


とはいえ、こうやって近くで見ると非常に美しいのが分かります。紐でスプリングの強度などを制御するのですが、この作業次第で椅子の座り心地や、形状が決まってくるので重要です。


こちらの職人試験作品は完成間近になっています。綿布でくるんだ後、表面の生地を縫いつけます。


家具デザイン科の卒業作品。デザイン科は家具製作科とは違い、現代的な工業デザインが主となりますが、どの学生も基本的な木工技術を有しています。


ラップトップ用のテーブル。公共の場などに合いそうで寸。


ユニットとなっている部位を組み合わせる棚。接合部にはちょっとした工夫が隠されています。


ここからは家具製作科の職人試験作品。ちょうど一年前には私も職人試験の最中だった事を思い出しました。このサイドボードには長い巻き扉が備わっています。


左の扉を開くと引き出しが4段、隠されています。


こちらは背の高い戸棚。左側に小さな取っ手が見えています。


大きな扉と二つの引き出しが備わった戸棚。


さらに大きな戸棚。引き出しが複数になると、加工の大変さもさることながら、全ての引き出しの動きを同じように調整する必要が生じます。


この戸棚を作った学生は見事、満点評価を得ました。よく知った場所とはいえ、これだけ立派な作品たちを見るのは、興味深く楽しかったです。手の技術の素晴らしさを再認識。


今回はここまで。次回はテキスタイル作品を見に行ったHVスコーランの模様からお伝えします。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!