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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2010.05.12

第80回 しあわせな家具展(後編)

前回のレポートで告知させていただいた「しあわせな家具展」、お陰様で大盛況のうちに閉会を迎えることができました。

スウェーデンからの帰国直前である昨秋から企画が始まり、準備期間も非常に限られていましたので、率直に申しますと、かなり大変でした。でも結果的には、展示会を開催して良かったと心から思っています。 今回は展示会報告を兼ねて、会場での様子をご覧ください。


シンプルな会場構成に、幾つかの企画を織り交ぜています。限られた予算ではありましたが、うまくまとまったと思っています。


初日にはパーティーを行わず、最初の週末である土曜日にトークイベントと併催することにしました。そのトークショーで司会進行を担当したのが、hao & meiの傍島浩美さん。


傍島さんの絶妙の語り口に感心することしきり。肝心の私はといえば、マイクが回ってくると言葉に詰まる始末。まだまだ余裕が足りませんね。

この日は撮影をする余裕もなく、残念ながらパーティで振る舞われたケーキなどを撮ることができませんでした。ケーキやワインをご提供いただいたjellyfish社のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。美味しかったです。

Jellyfish.株式会社

青山の「A to Z cafe」、「茶々」などなど素敵なお店がいっぱいです。


今回の参加メンバーの中で活動規模が一番大きいのは、間違いなくスタンダード トレードの渡邊謙一郎さんでしょう。でも、渡邊さんはとても気さくな方で、その様な側面をなかなか感じさせないところがすごいなあと思いました。


この写真一枚からも、渡邊さんのこだわりが感じ取れます。私はこれから活動を始めるわけですが、このように一部屋分のスタイルを提案できるようになりたいものです。


私が持っていない技術を、幾つも使いこなしていた深見木藝の深見昌記さん。会場で何度も見ていくにつれ、伝統的なテクニックを使いつつも、とてもモダンだと感じるようになりました。


移り気な私にとって、自身のスタイルを築くとはこういうことなのだと知る、良いきっかけとなりました。


チャンスを引き寄せる力、それこそも実力なんだろうということが良く分かった松本研究所の松本行史さん。写真に写っている椅子など座り心地が良いんですよ。


会場で唯一のベンチ。ついつい座ってしまうのです。他の皆さんもやっていたと思うけど、私も会場中の作品を試してまわりました。


うたたねの山極博史さんは、何年も前にメールのやり取りをしたことがありましたが、今回初めてお会いしました。私がやってみたいと思っていることを、既にたくさん実践済み。要するに、気になるわけです。


この掛け時計「hana」、素敵でしょう。


親しみある鎌倉(私の実家に近い)で、inu it furnitureとして活動している犬塚浩太さん。このテーブル、金属っぽく感じずかっこいい。そして、話していても面白い方だと思いました。


座面の小さなスツール、たくさんの方の興味をひいていました。ちょっと腰掛けたい時などに重宝しそうです。


パッと見るだけでは分からない仕掛けが搭載されているKWC近藤 徹さんによる家具たち。搭載というと大げさかも知れませんが、金属加工技術を駆使して金物たちを近藤さんは作ってしまいます。


既製品とは大きく異なる感触で動作する可動部。ここまで拘ることは小さなことかもしれませんが、使用感には大きな違いが出てくると思います。


鉄というと硬くて冷たそうなイメージがありますし、実際にそうなのですが、la forgerone岡本友紀さんの作る物たちは、むしろ柔らかく繊細で、優雅と表現しても良いかも。


参加者の中で、一番体力的にきつい仕事をしているのは岡本さんではないかと思います。女性だから云々ということではありません。でも、そんなことを全く感じさせないので驚きます。


独特の雰囲気を持ったブースを作り上げていたantosの小林寛樹さんと水田典寿さん。展示会の準備の過程でも、彼らのスタイルや考え方が非常に新鮮に感じました。私も自分のカタチを決められるようになりたいです。


もう一つ印象に残ったのが、この展示を作り上げるときの姿。はたから見ていても、すごく楽しそうに作業しているんです。「その場でどうするか決める」とのことだけど、それでこれだけの形にまとめるのだからすごいなあ。


SHIMOO DESIGN。下尾和彦さん、下尾さおりさんのお二人で活動されています。超モダンな和家具と言えば良いのでしょうか。でも、ラインとかバランスがすごくかっこいいんです。


そして、二人で一緒に物を作っていることも羨ましい。スタイルを確立していくことの大切さを感じました。


今回の特別企画。 会場のアンケートにお答えいただいた方の中から抽選で、各作家/デザイナーが作った小物をプレゼントするという企画を立てました。良い物ばかりが並んでいたので、私も欲しいくらいです。アンケートにお答えいただいた皆さん、ありがとうございました。そして、当選された皆さん、おめでとうございます。


小物たちをどの様に使うかは、もちろん自由。棚の上に置いたりしても良いでしょうし、もっと面白い活用法があるかもしれませんね。


小物とはいえ、それぞれの造形を見てみるのも面白いと思います。


11組の出展者による、もう一つの企画。先ほどのプレゼント品はテーマを設けませんでしたが、こちらは「椅子」で統一しています。


それぞれの制作スタイルや違いが良く分かり、興味深い内容になったと思います。全ての椅子を試されている方を多く見かけました。お気に入りの一脚は見つかりましたか?


私の展示ブースはこちらになりますが、その前に。


パネルの裏側には、もう一つの特別企画を用意していました。家具がどの様な場から生み出されるかを、ほんの少しですが再現した「小さな工房」です。


今回の展示会の協賛社であるフェルダー社から、工作機械K700を提供していただきました。驚異的なほどスムーズに動作するスライドテーブルや、たくさんの工夫が折り込まれている機構、そして怪我のリスクを低減するための装備など、最新鋭の木工機械としての素晴らしい性能を有しています。

初めてヨーロッパの機械に触れ、驚かれている方がたくさんおられました。オーストリア出身の世界トップメーカーですが、日本に進出してまだ数年。この機械の良さをたくさんの方に知っていただきたいと思います。

Felderグループ ホルツテクニカ社


機械と一緒に、作業台と製作途上の椅子を展示しています。私がどの様に出展作を形作っていったかを、垣間見ていただけましたら幸いです。


それでは私の出品作をご覧ください。スウェーデンから帰国し、初めての展示会です。


限られた時間と材料で作った机と椅子。とはいえ、新たな技術にも挑戦してみました。


椅子は、軽さと強度の両立をめざして作っています。座面と背はアメリカンチェリー、フレームはナラ材を使っています。


シンプルなデザインですが、ちょっと凝った構造にもしています。


初めて成形合板の製作に挑戦。思ったよりもずっと上手くいったので、今後の研究課題にしたいと思います。


椅子は、軽さと強度の両立をめざして作っています。座面と背はアメリカンチェリー、フレームはナラ材を使っています。


正面からだと分かりませんが、背もたれは曲面になっています。椅子に深く腰掛けた際にしっくりとくる角度です。なぜそのようにしたかというと、


この机と合わせての使用を想定しているからです。


パソコンの使用や、文筆などデスクワーク向けの机です。


仕事をする際には、なるべく良い姿勢をとる事が、疲れを増やさない大事な点。ということで、行儀良く座った際にピッタリな背もたれとしています。


会期中には私の家族もやって来ました。まだ6歳の息子には大きすぎるようです。


機械と一緒に、作業台と製作途上の椅子を展示しています。私がどの様に出展作を形作っていったかを、垣間見ていただけましたら幸いです。


今回の展示会、私が企画立案を行い、運営などを行ってきました。しかし、運営業務と、家具作りを平行して進めるのは、想像以上に大変なことでした。

でも、得られたことは、それを遙かに上回ることばかりだったと、今ならば言えます。

当初は1500人くらいの訪問者だろうと考えていたのですが、実際にはそれどころではなく、最終的に約4600人もの方のご来場を頂くことができました。本当に嬉しく思いますし、自信にも繋がります。

これも出展者の皆さんのこれまでの努力があったからでしょうし、多くの方からご協力を頂いたからこそだと思います。今回の展示会のきっかけとなった書籍「家具と人」を出版いただいたBNN新社の皆様、展示会へ大きなサポートを頂いたフェルダーグループ、ホルツテクニカ社の皆様、素晴らしい会場を使わせて頂いたリビングデザインセンターOZONEの皆様、告知の場を頂いたジャパンデザインネットの皆様、そしてパーティで多大なご協力を頂いたjellyfish.社の皆様、そしてチャンスを与えてくださった全ての皆さん、本当にありがとうございました。

私たちにとって、本当に「しあわせな家具展」となりました。そして、私の日本での活動スタートを表明する場とできたことも本当に嬉しく思っています。ありがとうございました。


後日談。

初めてのお客さまの元へ、私が初めて作ったオリジナルの椅子を、初めての納品に行ってきました。スウェーデンから帰国して最初に作ったものですので、喜びも格別です。

都内の小さな、でも素敵なギャラリーに置いていただけることになりました。これは嬉しい。最初の品ですので、たくさんの方に座っていただき、試して頂きたいと思います。

地下鉄 神保町駅のすぐ近くという好立地です。
gallery福果


まだ焼き印もプレートも用意していないので、座面下に直筆でサインを書き込んであります。通し番号は、「001番」。もちろん特別扱いの椅子です(笑)。桁を増やせるように、目標を持って少しずつ進んでいきたいです。


木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!