2007年個展の記録

 

 

機会を得て、スウェーデン滞在中に製作した家具たちを展示する個展を、東京で開催する事ができました。個展その物も私の一作品として、ここで紹介致します。

以下の文を、個展の趣旨説明として展示会場入り口に掲げました。

 

スウェーデンの近代家具デザインの巨匠カール・マルムステンが創立し、ヨーロッパでも最高レベルの技術教育が確立しているCapellagården(カペラゴーデン)とCarl Malmsten CTD(カール・マルムステン木工技術デザインセンター。現在はスウェーデン国立リンショーピン大学に所属)で家具製作とデザインを学んだ須藤 生の作品と活動を紹介する展覧会です。

私は父が日本でオルガン製作の工房を構えていたことから、木で物を作ることに興味を持ち、1999年の夏にカペラゴーデンのサマーコース(3週間)に参加しました。滞在中、ここは物作りを学ぶ場として文句のつけようがないほど最高の環境であることを実感し、スウェーデンで本格的に家具作りを学びたいと考えるようになりました。

カペラゴーデンは1957年にカール・マルムステンが、生活や社会での基盤となる“物作り”の聖域を作りたいと考え、創立した学校です。木工・家具デザイン科、テキスタイル(織物、プリント、染色)科、陶芸科と園芸(有機栽培によるガーデニング)科の4つのコースを有し、約60人の若者が学んでいます。学生は基本的に校内の寮で生活し、生活に必要な物を自分たちで作り、使用します。自由な校風に溢れている中で3年間生活し、工業的な大量生産とは異なる、芸術・工芸としての物作りの場とは何かを知ることができました。在籍中にスウェーデンの家具職人試験を受験することが出来たのですが、まだまだ至らぬところがあり、さらなる勉学を続ける為にカール・マルムステンCTDを受験することにしました。

カール・マルムステンCTDは1930年に当時のトップデザイナーであったマルムステンがたった4人の学生のみでストックホルムに創立した家具製作の学校です。マルムステンがデザインした家具やデンマーク家具などを、高い品質で製作できる職人を継続して輩出する場として、木工家具の分野で名実ともにスウェーデン最高峰の学校となっています。現在はさらに家具デザイン科、家具修復科、家具生地張り科、ギター製作科(注:現在は廃科)の5コースを有し、約60人の学生が在籍しています。各科の学生は非常に高いレベルの技術を有し、スウェーデン王室や、ストックホルム市庁舎、美術館などからの依頼(特に修復)もあるほどです。

この2校では単に家具製作だけではなく、家具に関する様々な知識、技術を学びます。家具史、家具様式、構造、美術知識、クロッキー、英語、デザイン手法、設計製図、プレゼンテーション、経営知識などです。さらにマルムステンCTDでは各課程毎にテストやレポートが課せられます。

そして、マルムステンCTDの最後の製作課題として、家具職人試験を昨春、受験しました。日本ではしばしば誤用、誤解されているのですが、職人資格は「一定のレベル以上の仕事ができる」ことを証明するもの、そして、もう一つ高位のマイスター資格は「独立して職業を営むために必要な知識を持った、経験を積んでいる職人」ということを証明するだけであり、「名人、達人、素晴らしい技術」を持っている事の証明ではありません。とはいえ、スウェーデン留学の集大成として職人試験に挑戦することは私にとっても大きな目標でした。

スウェーデンの家具職人試験を受験する為には戸棚、机もしくは他の家具でもかまいませんが、受験作品には「製作図面」「引き出し」「手加工による組み手」「扉」「鍵」「蝶番(ちょうつがい)」「突き板」「下地処理」「塗装処理」などの必須項目が備わっている必要があります。製作に先立ち提出した図面と、完成作品が評価対象となります。スウェーデン最高峰のマルムステンCTDでの受験は、合格は当然として、マルムステンの学生として恥ずかしくないだけの内容を要求されます。正直、精神的な重圧はありましたが、ここ以外では絶対に経験できない貴重な時間を過ごせたと思っています。

展覧会のタイトル「PAUS」はスウェーデン語で休憩を表す言葉。本展は私にとって6年間のスウェーデン留学の一区切りとしての休憩(展示)を意味しています。

スウェーデンと日本の気候差、そして、日常生活で普通に使用していたことから、製作直後の完成度はありませんが、生の木から削り出したスプーンなどの小さな物から、職人試験受験の為に製作した戸棚などを通して、日本には無いスウェーデンの家具職人システムを垣間見て頂けましたら幸いです。

もちろん、家具に触れたり、椅子に座って頂いても構いません。ただし、指輪を付けた手などで家具表面を撫でる時は注意して頂けますと幸いです。その他、疑問点がありましたら、ご遠慮なくご質問ください。

2007年1月
須藤 生