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スウェーデン木工留学記
カペラゴーデン編
2003/09/07
第41回 職人試験受験へ備えた戸棚製作
2002年8月終わりからカペラゴーデンでの3年目が始まりました。カペラゴーデンでは希望することでスウェーデンの職人試験を受験することができます。受験許可を得る為には、試験までに職人試験課題に含まれる条件(鍵、合板製作、ちょう番、引き出し、組み手など)を少なくとも一度は経験し、先生からOKをもらう必要がありました。
これまでの2年間にカペラゴーデンで製作した僕の作品に含まれていなかった手加工での蟻組みを含めた作品を作ることが、3年目最初の僕への課題でした。約一ヶ月ほどで作れる物ということで、2年次に製作した椅子に合う高さの小さな戸棚を作ることにしました。
引き出し2つと扉を持つ戸棚とシンプルなデザインにしましたが、戸棚の骨格となる枠の製作は変わった方法にしました。前号までのメルマガで紹介していた夏の旅行中、当然ですが、たくさんの車が目に入ってきました。走行中に見る車はほとんどが後ろ側になります。その中でドイツ車のデザインが印象に残りました。アウディとメルセデスの車はずいぶん前から横からも視認性のあるブレーキランプをデザインしています。
一例としてメルセデスの後部ライト
その形状から戸棚の形状を思いつきました。ただし、この形状にして強度があるように作ることはそのままでは難しく、さらに写真を見て頂くと分かりやすいと思いますが、3方向から角で枠棒が一つになる構造は隙間無く確実な接着をする事自体も困難でした。
木工科の先生と相談をし、外見を変えずに強度が出る構造になるように枠の形状を検討しました。戸棚の壁を利用して強度が出る方法に、枠の形状を考え直し、角の部分は綺麗に接着が出来るように専念することだけとしました。重要な部分の構造や寸法が分かるように部分図面を描き、製作を始めました。
まずは壁となる部分の合板作りから開始しました。以前に、マルムステンがデザインした裁縫箱を製作した時と同じ製作方法です。材料はカペラゴーデンの倉庫から廃棄処分になる予定だった楢(ナラ)の突き板(木を薄くスライスした板)を使用することにしました。普段は使用した分の料金を払うのですが、無料で入手することができました。
突き板の断面に鉋をかけることから始めました
突き板をテープで仮止めし、接着の準備
細い棒が内部に含まれている合板を作ります
枠となる白樺は、完成時に現れる木目を考えながら木取りをしました。外見は普通の枠に見えますが壁を接着出来るように工夫しています。角になる端は正確に45度になるように加工をし、接着時に少しでも木工ボンドが効くように薄めたボンドを木口(こぐち)に擦り込んでおきます。
本体と壁の接着はそれほど難しくはありませんでしたが、最後に一体にする為の接着にかなり時間がかかってしまいました。角が斜め45度の為に普段のように圧を加えると滑ってしまうのです。何度も練習と検討を重ねたお陰でうまく接着できましたが、その後に接着がはがれたりしないか心配でした。
残るは引き出しと扉の製作です。引き出しの底面の調整から始まりました。引き出しの出し入れ時にスムーズに動けるようにしないといけません。この戸棚の場合、引き出し2つの間には仕切りが無い為、確実に両方とも平行になるように加工が必要です。そうでないと、引き出しを動かした時に引っかかったり、ガタガタになってしまいます。もちろん引き出しだけではなく、引き出しの入る相手側の本体も平行にしないといけません。
引き出しを作る際の課題である”手加工での蟻組み”は僕にとってこの時が初めてでした。同じ大きさ、厚さの板を用意して練習を何度もしてから本番の製作に移りました。線を引いてから鋸(のこ)で正確に切れ目を入れます。この加工には日本の鋸が最適で、加工中の手首の力の入れ方や、切り進むにつれての角度を注意していれば綺麗な切断面が現れます。
ここで完璧な鋸加工がされていればこの後に修正を加えずに相手側の組み手と綺麗に組み合わせることができます。僕はまだそこまで追い込める様に鋸を使うことが出来ず、少しだけ鑿(のみ)で追加加工をしました。綺麗な組み手を作るには日本の鋸と鑿が最適です。特に鋸は、スウェーデンでも、ほとんど全員が日本製でした。日本で一番安い製品でも、確実にヨーロッパの物よりも繊細な加工を”速く”することができます。押して使うヨーロッパの鋸と引いて使う日本の鋸とでは性格が大きく異なるのですが、詳しくはネット上や市販されている本などで調べてみてください。
扉の加工は蝶番(ちょうつがい又はちょうばん)に神経を使います。2年次に製作した裁縫箱で経験していたので、加工の手順をしっかり確認しながら作業をしていきました。加工終了時に扉が傾いていないようにすることも重要です。完璧ならば扉の四方には一定の隙間が空いているはずです。
ほとんどの加工が終了したところで、今回は次号へ続きとしようと思います。この戸棚の製作後に待っていた辛い現実の報告です。
角部の断面はこの様になっています
側面となる壁の接着。45度になっている角にはかなり気を使いました
3方向からの接着が完了しました
ヤスリで丸める前
側面となる壁の接着。45度になっている角にはかなり気を使いました
引き出し背面の組み
引き出し。取っ手は掴みやすいように大きめです
木工留学記
ストックホルム編
カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。
本になりました!
スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0
当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!