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スウェーデン木工留学記
カペラゴーデン編
2003/11/16
第43回 テレビ番組の撮影
職人試験の受験を認められず(詳しくは前号をご覧下さい。)ショックを受けた2日後、日本からあるメールが届きました。テレビ番組の為の調査をしている会社の方からで、海外に住んでいる日本人家族を捜しているとのことでした。カペラゴーデンにも興味があるようでした。
2度ほどメールのやり取りをした翌日、早くも電話がかかってきました。が、僕はまさかこんなに早く連絡が来るとは予想もせず電話からは離れた場所で書類の整理をしていました。そしてまた、その翌日、改めて番組制作担当の方から国際電話がかかってきました。学校のこと、普段の生活のことの他に、職人試験を今年は受験できないということまでいろいろと話しました。
さらに翌日、今度は番組のディレクターから電話を受け、それまでに話した事を含めて打ち合わせをしました。撮影は年明けかなと思っていたら、なんと彼らは2週後(11月終わり)にはカペラゴーデンへ来たいということで驚きました。
戸棚の完成には間に合いませんが、引き出し製作が終了し、先生からチェックをしてもらう場面をぜひ撮影したいと提案されました。新たな製作課題として作り始めたばかりだったので時間的にはちょっと際どかったのですが、間に合うようにする事を伝えました。
家族を紹介する番組側として、撮影後の春に生まれてくる子供についても撮影を希望されました。その時点では特に定期検診も何も予定がありませんでしたが、助産婦さんへ連絡をすると特別検診の為に時間をあけて貰う事ができました。
撮影当日までに僕がすることは、戸棚の本体を組み上げ、引き出し製作の準備をする事でした。材料取りや、仕切り板の用意が正確にできるように気をつけ、引き出しが入るスペースが正確に加工(たとえば平行になっていること。スペースの厚み一定など)されていないと、引き出しの使い勝手に大きな影響が出てきてしまいます。
先生2人ともテレビ撮影についての話をしました。撮影中に僕の製作している戸棚の経過チェックをすることを”楽しそうに”了解してくれました。学生たちは「日本語を話した方がいいの?」と心配(笑)し、5月の日本旅行時の記憶から出た言葉が、「コンニャク!」。
先生からは、「テレビ撮影があるからとはいえ、無理をしてうまく引き出しを作れないような事にならないように。」と言われました。間に合えば撮ると良いだろうし、箱の状態(戸棚の引き出しと扉が無い)でも見るべき所はあるのだからとの忠告でした。
戸棚本体の側板(左右の板)は一枚の板を半分に割った物2組を接着し、一枚の板としています。板は厚さを半分に切り、その状態で本の様に開くと左右対称の模様が現れます。模様(木目)の綺麗さと、節(ふし)などの汚い部分を極力含めない材料取りを心がけました。どうしても残ってしまう節もありましたが、自分の為の戸棚なので妥協をしました。新たな材(樹種は同じでも、同じ木ではない物)から材を追加すると、コストもかかりますが、色味も違ってしまう可能性がでてきます。
撮影隊はディレクターとカメラマンの2人。金曜日夜中12時近くに学校へ到着。学校の敷地内にあるゲストハウスに宿泊し、食事もカペラゴーデンで食べられるように手配をしておきました。カペラゴーデンの生活を体験する事は番組製作にとっても有益だろうと思ったからです。
週末はカペラゴーデンは基本的に休日ですが、僕は工程を進める為に作業をし続け、撮影隊は近くのレストランや島の風景を撮影しに出かけていました。月曜日からは普段の学校生活が始まるので、校内での撮影が増えました。カメラマンは携帯できる強力なランプを日本から持ってきていて、それをうまく活用しながら照明としていました。
引き出しの製作に必要な材料取り自体は撮影隊が来る前に終了していました。製作過程の要所を撮影できるように組み手の加工を待ったりと最初のうちは余裕があったのですが、火曜日午後にもなると間に合うとは分かっていても緊張の時間が始まりました。
引き出しの箱にするまでの過程は、水曜日朝の撮影(先生のチェック)に間に合う為にも手間取っているほどの時間は残っていませんでした。もう一度、作り直すわけにもいかないので、集中してしっかりするように自分自身に言い聞かせていました。火曜日晩にはカメラがずっと待機してて、気を抜くわけにもいかないという、強いプレッシャー(良い意味での)を感じました。
接着の段階で僕が工房内を何度か走る事があり、すると撮影隊の2人も僕の後を追って走り回っていました。周りで見ていた学生にとってはかなり面白い光景だったようで後々も笑いのタネとなっていました。30分の番組を撮影するには300分の画像が必要だそうで、常にカメラを向けられていた印象が残っています。
引き出し底板の接着後、少しだけ接着面付近が膨らんだようで最初はうまく箱に入らず焦ってしまった(テレビでも放映されてしまいました。)のですが、冷静に考えてみると大した問題ではなくすぐに対処できました。その時点で工房には僕だけしか残っていないほど遅い時間になっていて、とても疲れていたのでそこで終了にすることにしました。確信はありませんでしたが、きっと翌日のチェックは大丈夫だろうと思いました。
毎週土曜日夕方に放送されている番組です
庭で自己紹介の撮影
ランチの時間に撮影しました
自室でインタビュー
家具製作科の先生、キャレ
職人試験を受けられなかった事について話しています
街のスーパーへ買い物に行きました
休日に自宅で夕食
思いがけずお腹の赤ちゃんの心音を聴く事が出来ました
僕は作業中で全然知らなかったのですが、この引き出し製作中にいつの間にか僕の住んでいる部屋で妻のインタビューを撮影していたようです。引き出しが出来上がったのを見届けたところで、撮影隊のお二人からお祝いに飲もう!と誘われました。夜遅かったのでビール一本でしたが疲れた体にはかなり気持ちよい酔いが回りました。
僕が作業中にいつの間にか撮影
水曜日10時の休憩時に皆の前で引き出しの動作などのチェックが行われました。普段も行程毎にチェックをしてもらいはするのですが、今回は皆が見守る中という特別な状況になりました。朝一番にも調整をしていたのでそれほど心配をすることもなく無事にOKをもらう事ができて安心しました。ドッと疲れが出てその後は部屋で夕方まで熟睡してしまいました。夕食時に校内へ行くとなぜか僕はダウンした事になっていて皆から心配されて驚きました。まあ、似たような感じだったのかもしれませんが。
休んでいる時間中に先生へのインタビューも行われていて、その中で僕への評価が変わりましたか?という質問に「今までと変わっていないよ。出来る力がある事は分かっていたが、ただ彼がそれを僕に見せていなかっただけのことだよ。」と答えた事を聞き、うまい事を言うなあと思い、そしてうれしくもありました。
木曜日朝にも少し撮影をした後、撮影隊は日本へ帰っていきました。アッという間の撮影期間でしたが、なかなか出来ない貴重な体験をする事ができたと思います。
そして一ヶ月後の1月18日18時半からテレビ朝日系で「ポカポカ地球家族」は放映されました。ほぼ全国放送だったようですが、もちろん僕はスウェーデンにいるので放送を見る事はできませんでした。が、反響はとても大きく、ホームページのアドレスを番組上で紹介していないにもかかわらず、サイトへのたくさんの訪問者、そして多くのメールが届きました。
日本の実家では番組開始とともに夜まで電話が鳴り続け、夕食もろくに食べられなかったそうです。いろいろと伝わってきた感想から推測すると、どうも僕は”まだまだ木工を始めたばかり”に感じる雰囲気に番組が出来ていたようですが、良い内容だったとも必ず聞き、とても満足しました。
僕が放送を見たのは約1ヶ月後。ビデオを入手し、校内の図書室で見ました。おおっ!ポカポカって感じだと思いながらも気恥ずかしいものでした。スタジオ・トークやクイズなども僕とは関係ない話がありましたが、なかなか面白く楽しみました。
放送内容は番組のホームページにあるバックナンバーをご覧下さい。大体の番組の流れが分かります。一つだけ訂正を。「転校」と書いてある部分がありますがその様なことはなく、進学と考えた方が適当かと思いますのでご了承下さい。
いずれにせよ僕のスウェーデンでの生活を紹介できた事、たくさんの方にご覧頂いたいただけた事は本当に良い経験でした。番組の撮影、制作をしてくださった皆さんにもお礼を申し上げます。
引き出しの動きの調整中
朝一番にKazueに見てもらいました
チェックが始まりました
無事にOKをもらうことができました
僕が寝ている頃に撮影したようです
山崎カメラマン撮影
木工留学記
ストックホルム編
カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。
本になりました!
スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0
当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!