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第23回 Sybord - 裁縫箱 -

 今回はカペラゴーデン1年目に出た燭台(しょくだい)に続く2つ目の課題について。11月の始めに1年生が食堂に集められて複数の図面を見ながら説明がありました。戸棚や書斎机などのマルムステンがデザインをした家具たちの複数の図面からどれか一つを選ぶように言われました。僕はその中で、テキスタイルの道具を収納する為の箱であるSybordを選びました。

 すかさず先生から、これは一番仕事量が多く大変だよということを言われたのですが、いろいろ見た中でこの図面から想像される物をとても綺麗だと感じ、製作をすることにしました。が、忠告通り、かなり苦労をすることになったのです。

材料となる洋なしの木。

 まずは木工科の材料置き場にある材を片っ端から見て、材料を決定することから始めました。、赤い色をしていて少し甘い匂いがする洋梨の木を使うことにしました。材種を見ていた時に知ったのが、リンゴの木は少しリンゴの匂いがすること。その木が特別だったのかもしれませんが驚きました。どの木でも表面を爪でこすると新鮮な香りが出てきますので、皆さんもぜひ試してみてください。

 年明けから材料取りを開始しました。長さ2メートル、厚さ6センチもある木からの材料取りは初めてで、いろいろ考えながら木を切りました。今、思うことはこの頃はまだ木目をあまり気にしないで作業していたのがもったいなかったです。

松が心材となっている合板を作りました。

 箱の底板となる部分は無垢材ではなく、洋梨の突き板(薄い板)を貼って作る方法で製作をしました。要するに合板ですが、一般的に知られている合板よりもずっと上等な作り方でした。僕もスウェーデンに来る前は合板はそんなに良い物だとは思っていなかったのですが、作り方次第によってはとても有用で、安っぽくならない事を知りました。木の性質でもある、縮んだりねじれたりするのを極力防ぐ為の知恵でもあります。

 突き板(今回は0.6ミリ)の断面には鉋(かんな)をかけて、完全な直線を出し接ぎ合わせて幅広にしていきます。表面になる洋梨の突き板に対して、内側には心材となる松の木と、木目(もくめ)が交差するように貼ってある下地の突き板が隠れています。松の木は細い棒状にした物をたくさん用意して間を0.2ミリくらい空けて上下に突き板を接着します。

 準備に時間がかかりますが、きれいに出来上がると無垢材に負けないだけの質感と、無垢材と比べて狂いづらい板が出来上がります。ちなみに突き板の接着時に、常温でやるのを前回の使用者の設定していた高温設定のままにした為に、急激な乾燥等で突き板が見事に縮んでしまい失敗し、同じ事をもう一度やる羽目になってしまいました。

取り外し可能な仕切りを真上から見る。

 内部の仕切りとなる薄い板の為の溝はルーターの刃をグラインダー等で加工をして、仕切り板が綺麗に入るような溝を切れるようにしひとつずつ切りました。仕事量が多いと言われた通り、地道に作業をしていくだけでした。

 蓋(ふた)は無垢の木なのですが、接着はせずに乾燥で木が縮んでも良いようにする為にネジ止めにするように図面に指示が書かれていました。木が動いても良いようにネジ穴は左右に数ミリは動けるように加工をし、洋梨の木で栓をしました。木のことをちゃんと知っている人でなければ分からない知恵だと思いました。

 蓋の蝶番はイギリス製の真ちゅうの物を使用しました。ただ取り付けるのではなく、ネジの入る穴の周りの加工等をし、蝶番自体は木の表面からほんのちょっとだけ出るくらいに取り付けて、ヤスリで削り落とします。そうすることで蝶番の表面は木と同じ面になります。でも、削りすぎてネジ溝がなくなってしまってはいけないので正確な作業が必要です。これは量産家具では絶対に行われない技術で、綺麗に物を作るとはこういう事なのだなと知りました。

 この時、すでに製作自体は夏休み休暇を超えて、2年生に突入していました。他の皆は戸棚の製作は終了していて次の事を始めていました。やること全てが初めての技術だったので毎回が練習、失敗の繰り返しでした。

 脚も製作し、全体の表面仕上げは下地にシェラックというものを使い、表面に蜜蝋(みつろう)を使用することにしました。正確には擦り込んだと言った方が良いと思いますが、とても美しい表面となりました。最初は亜麻仁油でオイルフィニッシュにしようと思っていたのですが、それはやめた方が良いと先生に言われました。なぜだろうと思い、端切れで実験をしてみると、なんと洋梨の木の場合はにじんだようになってしまい汚く見えてしまうのです。ナラなどに塗ると色が濃くなるのですが、かならず良い影響が出るわけではない事が分かりました。

 終了間近のある日、2階のテキスタイル科の織り機の振動で、作業台の上の棚に置いてあった脚部が落下してしまいました。かなり大きな傷がついてしまい驚きました。幸いだったのは箱部に直撃しないかったことですが仕事が増えてしまいました。先生からはしっかり直すことが出来てこそ、本物の木工家になれるんだぞと言われましたが、さすがに自分のミスで起きた傷ではないのでショックでした。でも上の階で作業していた人が悪いわけでもないのですが。

 籠(かご)は枠を送り、籠作家の方に作って頂きました。本当は自分で作ってみたいのですがますます時間が必要になりますし、かなり難しいとのことで見送りました。

 2年目の夏休み(3年目が始まる前)の夏の展示会に出品しました。スウェーデンの新聞に展示会の記事が載り、その中の写真に裁縫箱も掲載されました。2年連続で載ったので嬉しかったです。

まずは図面を見ながら立体図を描き起こしました。
大まかに木取りを行いました。
一番手前の物は固定されています。
蓋の板は枠にネジで固定していますが、木の収縮に合わせて動けるようになっています。
木栓でふさぎます。
蝶番。手前がヤスリで仕上げてあります。まあまあでしょうか。
綺麗な籠も備わりました。
夏の展示会場で。なかなか良い場所をもらえて嬉しいです。