25

 

第25回 課題 - ベンチ -  

 2001年秋、2年生が始まってすぐに、ある課題が発表されました。ベンチをデザインするというもので、スウェーデンのアウトドアの為の家具を作っている企業との共同プロジェクトでした。他の北欧諸国にも販売網を持っている大きな会社です。

 条件はこのようになっていました。

1.ベンチ
2.屋外使用
3.中心となる材料は木
4.スウェーデン市場には無い物
5.売れるもの

 企業の関係者が見に来るプレゼンテーション時までに最低1つのプロトタイプを作ることになりました。まずは学生達での発表の為にアイデアを考えることから始まりました。

 課題が出た後、木工科は近郊にある大学へCAD(コンピュータでのモデル製図)を学びに一週間旅行へ行きました。僕は日本の大学で少しCADの事を学んだことがあったのと、初級者向けのコースだということもあり、必要ないと判断し、参加をしませんでした。

そこで僕は皆が旅行へ行っている間にCADを使ってベンチのデザインに挑戦してみることにしました。CADを使ったことがあるとは言っても実際は平面図面を少しだけ描いたことがあるくらいだったので、練習を兼ねるのと、CAD旅行へ参加しないだけの事が出来る為にも勉強をすることにしました。日本からこちらへ来た時に買ったCADを使ったインテリアデザインの為の本一冊が先生です。

 最初はもちろん板一枚を書き出すだけでも試行錯誤でした。何度も何度もモデルを作っては消して、同じ事を繰り返しました。だんだんコツが分かってきて色の付け方や、影の表現の考え方なども試しました。太陽(光源)の位置を指定することで影の処理が行われるのでした。

 でも、僕のマッキントッシュのコンピュータはモデル作りには全く問題はないのですが、材の表面や陰影の処理をし始めるととたんに動作が遅くなります。10分以上待つようなこともあり、それらの設定は使用しないことにしました。10分待っても満足できない結果の場合、取り消してまた10分待たねばいけません。もちろん一昔前のプロの方々は、1つの加工をスタートさせてランチに行き、その後に結果を確認するという事をしていたのも知っていますが、さすがに僕にそれは出来ませんでした。

屋外写真にCADモデルを合成してみました。
 満足できるモデルを作れるようになり、プレゼンテーションでどのように見せるかを考え始めました。僕がCADでデザインしていることは言っていなかったのですが、小さい模型を作らないで皆に見せる為にも、ビジュアルで発表する準備もしなくてはいけません。プリントする用紙に書く文章はスウェーデン語学校の先生にチェックをしてもらいました。

 発表ではこのようなことを言うことにしました。
---------
 2年前の夏にケルンの美術館を訪れた時、そこにあった観覧用の籐編みの椅子と、必ず対面して座ることになる古い椅子から影響を受けました。私のアイデアは、この椅子達をシンプルで強いデザインの中に取り入れることです。

 このベンチは同じようなデザインである机と共に、街路、庭、自宅、レストラン、店内、もちろん公園などの様々な場所に適応します。最大で4人(例えば2組のカップル)が腰をかけられ、真ん中の茶色部はこの人々を無意識に左右に分けることを考えています。
---------

 カペラゴーデンには発表に使用できそうな機器はOHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター)、スライド映写機そして27インチのテレビがありました。テレビだけしかマッキントッシュと接続が出来ないのですぐに決定しました。コンピュータ画面をテレビ画面へ映し出す方法を見つけ、当日に失敗しないように何通りかの接続設定を試して確実にしておきました。このテレビへの接続は後々の発表でも活用できていて役立っています。

 学生同士での発表の日、皆は模型や絵で発表をしましたが、僕はテレビを使って流れを説明していきました。まだまだ苦手なスウェーデン語ですが映像があるとずっと説明しやすいものです。

 質疑応答時、6本脚なのは平らではない外では問題になるんではないか?と問われ、確かにその通りで試作をしてチェックをすることにしました。発表自体は良い反応でした。

 後日からプロトタイプ(試作品)を作り始めました。他の皆は半分の長さや、紙を使ったり、強度のでる作りではないモデルを作りました。フォルムを見る為のモデルでは、そのような作り方で良いのですが、僕はせっかく作るなら使える物にしたいと思い、ある程度は頑丈な物を作ることにしました。

 良く覚えてはいないのですが、このモデルの製作は自分でも驚くほど一気に作り上げました。2,3日で組み上げたような気がします。接着部はダボ(木の棒のような物)が入っているだけなのですが、試作としては十分満足できる強度があり、楽に持ち上げられる重量になっています。屋外で使用してみたところ、6本脚でも問題ありませんでした。ある程度はしなる事と、普通に考えてみると、ひどい地面の所では使用しないと思いました。脚が細めでもあるので土や、砂地には潜り込ませることも可能です。

発表時に配ったプリント。

 企業の方が来て行われた発表の日、それまで練習してきた方法で発表をしましたが、その後の先方からの連絡で残念ながら僕のベンチは選ばれませんでした。3,4の案を彼らは選び、その後、製品化は可能かどうかの試作とデザインした者たちとのやり取りが何度も繰り返されました。

 2002年2月のストックホルム家具展示会ではそれらの候補作品をカペラゴーデンからの展示としました。最終的に2つのベンチが選ばれ、最近、印刷された企業の新カタログにも掲載されました。

 僕のベンチはその後、車に搭載され長い夏休み旅行を共にしました。想定していなかったのですが車内で使用するのにちょうど良い長さと高さで大変重宝しました。いろいろ勉強できた課題で楽しかったです。
CADを使用して立体図を描き出してみました。
同デザインの机と組み合わせています。Bänkはスウェーデン語でベンチ。
CAD線図。
実際は少し太めの脚になっています。
斜め下から。
同じイメージに出来上がっています。
屋外に設置してみる。