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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2003.03.05

第1回  Stockholm Furniture Fair 2003 と2つのトップ スクール

今回は2月5日から9日までストックホルム郊外にある国際展示場で開催された Stockholm Furniture Fair 2003 の紹介と、芸術系の2大スクールの紹介をしたいと思います。

ファニチャーフェア(家具展覧会)ではスウェーデンのみならず世界各国から約 700の団体が商戦の機会を求めて展示をします。昨年の8月の時点で登録が一杯になるほど、北欧のみならずヨーロッパで重要な位置をしめる展示会となっています。

注目企業は日本でも様々なメディアで報じられているはずですが、視点を変えて僕は学生たちにとってのファニチャーフェアの紹介と、展示会期間中に僕が見学に訪れた2つの学校、KonstfackとCarl Malmsten CTDの紹介をします。

今年のストックホルムファニチャーフェアは例年とは異なり、学生および若いデザイナー達の為にビクトリア・ホールというスペース全体を特別なエリアとして用意しました。昨年までは企業の展示ブースの奥に位置していたのですが、今年は正面入り口からすぐ近くという好立地になりました。主催者側は“まだ世界のデザイン地図に加わっていない人物を見つけて欲しい”との意図を持っていたようです。実際、この展示会で企業からスカウトをされてチャンスを得る学生がいます。

展示スペースの貸出料は学生達には無料で提供されています。素晴らしいことです。
学生達が良い経験を積み、様々な人脈を見つけることが本人にとっても、スウェーデンデザインにとっても将来へ繋がるのだと思います。

展示会場に入る前に、まず自分でチェックインをしないといけません。ここで氏名や所属企業(もしくは学校)などの必要事項を入力することでその場でID付きのネームプレートが印刷されるようになっています。学生のエリアや、モダン家具のエリアなどに出入りするたびにIDチェックをし、データ管理しているようです。


私の在籍している Capellagarden の展示です。Carl Malmsten CTD と並ぶ家具製作のトップスクールです。今年は昨年度の木工職人試験を受けた学生達の作品を展示しました。各々がこれまでの経歴、学生生活、将来についてを述べた冊子がなかなか興味深い物でした。
正面の机をデザインしたシュテファンの椅子は、2年前のファニチャーフェアで業者の目にとまり製品化され、ミラノのサローネで発表されました。


デザインの分野での最高の学校 Konstfack (芸術大学)の展示です。今年は家具デザイン科のみならず陶芸、ガラス、テキスタイル科との合同展示でした。様々な色、様式、材料を組み合わせての部屋の中全てをデザインしたそうです


家具デザイン科のカミーラの作品。


非常にレベルの高い製作技術を持った学生が集まる Carl Malmsten CTD の展示です。家具デザイン科の作品が今年は多く出ていました。


デザインの分野での最高の学校 Konstfack (芸術大学)の展示です。今年は家具デザイン科のみならず陶芸、ガラス、テキスタイル科との合同展示でした。様々な色、様式、材料を組み合わせての部屋の中全てをデザインしたそうです


やはり高いレベルの木工をする HDK Steneby の展示です。今年はモダンなデザインが多かったです


この学校は金属、テキスタイル、皮革、木工科などの様々なコースを持っています。


デンマークの首都コペンハーゲンにあるデザイン・スコーレの出展です。クラウスの製作したこの椅子は3枚の積層合板から成形されています。腕載せの部分まで一体になっているデザインです。プロトタイプでしたがドイツの企業がスポンサーになっているようです


ボロースという所にあるテキスタイル・デザインで有名な学校です。フォルムと機能がテーマ


Grebbestad にある学校の木工科の展示です。Carl Malmsten CTD の先生がちょうど見学に現れて学生達はちょっと緊張しています


ビクトリア・ホール内に設けられている休憩スペース。デンマークのバング&オルフセンのオーディオが設置されています。B&O はこの学生エリアの今年のスポンサー企業の一つです。学生達は休憩というよりも寝ています。


Carl Malmsten NU というこの会社は Carl Malmsten CTD を出た学生達をサポートすることを一つの目的としています。彼らの作品を Carl Malmsten の知名度と共に紹介し、若い彼らがチャンスを得る為のバックアップをしているのだそうです。“NU”とはスウェーデン語で”現在”を意味します。


展示会後、2つの学校見学に訪れました。Konstfack と Carl Malmsten CTD です。一概にそうとも言いきれませんが、Konstfackは “デザイン”の分野で、Carl Malmsten CTD は“家具製作”の分野でスウェーデン最高の学校です。

まずは Konstfack から。比較的、中心部に近い所にある芸大で、来年には現在、建築中の新校舎へ移るようです。案内してくれた学生の話によると、スウェーデンでトップデザイナーになりたいと思うならば Konstfack で学ぶことは必須だそうです。デザインを学んでいると言えば、それは Konstfack を指すほどの有名校なのです。やはり、現在はコンピュータを用いてのデザインが必須だそうです。

5年間の長い学業期間に、様々な講師が講義に訪れるそうです。最初の3年間はデザインに関するあらゆる事を学び、最後の2年間は各々のプロジェクトに費やすようです。学生の頃からすでに企業とプロジェクトを組む人や、個人の会社を興す者もいます。

正面玄関上にある時計と校名。


2階で行われていた家具デザイン科の展示会。家具をテーマとしてデザインされた様々な作品が並んでいます。


学生ごとの机が並んでいるのですが、展示会準備で忙しかったのか散らかっています。


機械作業の出来る部屋。とても広く設備も良い所でしたが、その靴で作業はどうかと・・・。芸大なだけあってさすがにオシャレです。子供を校内に連れてくるのはとてもスウェーデンらしいです。


次は Carl Malmsten CTD の校内を紹介します。現在、学校名は“リンショーピン大学 カール・マルムステン木工技術・デザインセンター”といいます。1930年からある学校で、Carl Malmsten Workshop School という昔からの名前の方が世界的にも良く知られています。小さなビルの中にあるので少し窮屈なのですがとてもレベルの高い学校です。

家具製作、家具デザイン、家具修復、椅子張りとギター製作科の5つのコースがあります。どのコースも毎年5人ほどしか新入生を取らない少数精鋭で、Konstfack と異なる点はどの科も“物を作ることを通して技術、知識を学ぶ”という事です。学生とはいってもすでに実務経験のある人が多く、プロフェッショナルの為の学校という趣が強いです。

椅子の座面張りのコースです。かなり古い家具の生地を張り替えています。


ギター制作科。マンダリンを製作中。図面から全て手作りです。


表面塗装をして乾燥中のギター。美しいです。


縁の模様なども全て学生によって作られています。良い音が鳴ると容易に想像できそうな素晴らしい作りです。


家具修復科。これは表面塗装についての実習中です。


家具修復科はかなりの時間を化学の勉強に費やすそうです。英語の分厚い文献を読まされるそうで、日本人にはなかなか難しいかもしれません。樹種、仕上げ、接着法などを見分けて適切な判断をしないといけません。スウェーデン王室家具の修復などにも携わったりすることもあるようです。


家具デザイン科の部屋。壁に吊るされている椅子が印象的です。


この学校へもコンピュータが入ってきています。手で物を作れることも大事ですが、コンピュータを使えることも必然となっています。


家具製作科の一年生の課題です。5つの異なる引き出しと裏側に一つの扉を持つ戸棚です。引き出しの木目が上下に繋がっているのが見えます。


日本の古くからの家屋に用いられる組み手の技術から影響をうけて作った箱です。組みは見えませんが、箱の引き出しなど全て木目が繋がっているのが分かります。量産家具ではありえない高度な技術です


市販されている名作家具から図面を起こし、まったく同じ物を作る課題について先生が話しています。これはデンマークのデザイナー、ハンス・ウェグナーのYチェアーです。スウェーデンでは約55,000円で売られているのですが、この値段で売る為にデンマークの会社では、いかに速いスピードで作り上げられているかを教えてくれました。その中でも圧巻だったのが、座面をたったの20分で編み上げているとの事。ウェグナー自身も語っている、“コピー商品を作ろうにもこれ以上に安く作りようがない”の意味の一因が分かった気がしました。


家具製作科の機械室。青い服の彼女だけがこの中では学生で他は見学者です。学校全体に言えることでしたが、掃除が行き届いていて感心しました。良い仕事をするための基本ですね。


にれの木で出来たテーブル。木目が放射状に広がっている美しい机です。


今後は専門的な内容を紹介することもあるかもしれませんが、スウェーデン・デザ インの奥深さを少しでも垣間見ていただけたら幸いだと考えています。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!