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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2007.06.13

第54回 久しぶりのマルムステン校

こんにちは! スウェーデンの須藤です。現在のストックホルムは夏の陽気が続き、とても気持ちの良い日々が続いています。去年のちょうど今頃は職人試験が終わり、ホッと一息をついたのを思い出しました。あれから一年が経ってしまったのですね。僕は職人試験を終え、卒業プロジェクトを残すのみとなっているので、現在はあまり登校していません。

しかし、他の学生が何を作っているかは、とても気になるところ。きっと皆さんもそうなのではないでしょうか。ということで、今回は僕が日本での個展(卒業プロジェクトの一部です)を終え、スウェーデンへ戻ってきた頃の様子をお伝えします。

3月中旬のスウェーデンは、春と言うには寒い日々がまだまだ続いていましたが、個展の報告がてら、久しぶりにマルムステン校を訪れました。


家具製作科の作業室。3年間の製作課題を終えているので、残念ながら僕用の作業台はありません。


1年生の机を見ると、木彫課題で作ったと思われるレリーフが。あまりにも素晴らしい出来に驚きました。今年も実力ある学生が入ってきたようです。


奥が3年生の作業場所。僕も写真左奥の作業台を使っていました。


去年の僕と同じく、3年生は職人試験の真っ最中でした。


突き板(薄い板)の薄い側面に鉋をかける。


引き出しが入るスペースの調整中。


2年生の机の上には、椅子製作課題で作った作品が。これはJohn Kandellのソリテールという有名な椅子。


アーム部。非常に個性的な造形なのが良く分かりますね。


こちらには一年生が作ったマルムステンの机”マルクス”がありました。


卓上はチェスボードになっていますが、天板を外した内部には、バックギャモン用のゲーム盤が隠されています。


これも一年生の作品。ディテールだけをお見せしましょう。


脚部と側面の接合部。手作業が要求される構造です。この意匠を実現するために、材料を贅沢に使う必要が生じます。大量生産の家具とは大きく異なる点です。


2年生が製作した椅子。椅子好きの方なら誰もが知っていると言っても過言ではない、ウェグナーの名作です。


このザ・チェアーの大きな特徴でもあるのが、アームと背の接合部。かなり高度な加工が要求される箇所ですが、おそらく前脚と後ろ脚への接合の方が難しいはず。


フィン・ユールの椅子を作ったフィンランド出身の学生。この椅子も極めて製作難度の高い物です。


突き板を接着した後の処理をしています。


現在の3年生が、職人試験前(2年生の時)に作ったマルムステンの机。象眼による装飾だけではなく、ディテールに溢れた素晴らしい机です。当然ながら製作も非常に困難です。


しかし、この学生は見事に作り上げました。


この引き出しの前板を作るだけで、一体どれだけの作業工程が必要になるか分かりますか? パッと考えただけでも、-引き出しの材を準備-表面の突き板を準備-縁張り用の材を準備-縁張り用の当て木を準備-サイズと位置合わせ-突き板に象眼加工-突き板を接着-縁張り-表面処理-塗装(オイル)-磨き上げ等々が思いつきます。しかし、テストや失敗など試行錯誤があれば、さらに工程が増えていることでしょう。ちなみにこの机は、ストックホルムにあるマルムステン家具店でも売られていますが、100万円では買えません。


その机を作ったのが右の彼。今度は職人試験に挑んでいます。


先生と共に、戸棚本体の接着方法を検討中。そう、この写真の時点では、まだ接着していません。どんな物が出来上がるのか楽しみです。


もう一つ、すごい椅子を見つけました。これは僕が2年生の時に作りたいと思っていたフィン・ユールの椅子。世界一美しい椅子と言っても大げさではないほどの、素晴らしい椅子だと僕は思っています。しかし、先生から「君は家族がいるのだから、止めておいた方が良い」と諭されてしまったのです。要するに、家族を犠牲にして、放課後や、休日にも作業をするくらいの覚悟が必要なほど、手間がかかるから止めておくことを勧めるという指摘でした。


しかし、この彼(もちろん独身)はやり遂げたようです。どんな座面になるのか楽しみです。


マルムステン校でちょっと疲れたら、同じ建物の一階にあるチョコレート屋さんへ。実はかなりの人気店。


改装したので明るく綺麗な店内になりました。


たくさんのチョコレートからケーキまでたくさん揃っています。ある意味、非常に危険な場所と言えるでしょう(笑)


家具デザイン科をチラッと見てみましょう。プロトタイプと思われる作品が幾つか見えています。


椅子のミニチュア。手前にある独楽(こま)は遊びで作った物かな?


図書室にある振り子時計。箱にはストックホルムの風景が象眼されています。


文字盤も象眼加工されています。作られてからすでに30年経っているようです。


ギター製作科の部屋には図面がありました。残念ながら、このコースは今年を最後に廃止されることになっています。


家具修復科の作業室には、修理中のロココ様式の家具が置かれていました。


こちらの教室では、各科の一年生が椅子の座面張りの実習中です。


座面張りに使う道具たち。


椅子の生地張り科の教室に入ってみましょう。様々な縫い糸が並んでいます。


3年生。職人試験受験作品として、このソファーを選びました。まずは背になるスプリングの設置から。


2年生。座面をこれから作ります。


座り心地に影響するスプリングの固定方法について、先生(左の女性)と相談中です。久しぶりに学校を訪れたわけですが、素晴らしい作品たちを見て、非常に良い刺激を受けました。最近、僕はデスクワークが中心になっているのでなおさらでした。


ヨーロッパでは春になると各地でオークションが開催されます。ストックホルムの主要オークションハウスでも、様々なオークションが企画されていました。北欧関連の物を狙うなら、ストックホルムがお勧めです。コペンハーゲンなど、各地から集まってきます。


オークション前の展示会(出品商品を見て、状態などを確認できる)を見に行くのは、僕の密かな楽しみの一つになっています。


これはかなり異質ですが、庭用のコンクリート製の家具。


写真の中に写っている物全てが出品商品です。


ウェグナーのザ・チェアーを見る僕の子供達。


ウェグナーとヤコブセンの椅子。このウェグナーの椅子は希少品です。


中古家具とはいえ、まだまだ十分に使える物たちばかりです。もし、何か問題があってもちゃんと直せるので心配ありません。


軽く紹介した程度ですが、そう、オークション会場は、その辺の美術館やインテリアショップにも負けないほど、北欧デザインの名作に触れることが出来る場なのです。もちろん、落札することも可能です。ちょっと高いですが…(笑)


このところ、レポート更新が少なくなっていますが、いかがでしたか? ネタが無いわけではなく、まだまだ皆さんにご覧頂きたい物がたくさんあります。次回はストックホルムの様々な学校の卒展を紹介する予定です。楽しみにしていて下さいね!

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メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

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日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!