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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2004.01.07

第14回 課題製作も終盤へ

新年おめでとうございます。須藤 生です。12月19日でマルムステン校も冬休みになり、日本へ息子を連れて一時帰国しています。このレポートが発表される頃にはスウェーデンへ戻りテストが待っています。どうなることでしょう・・・。

そして2月4~8日には、ストックホルムでInternational furniture fair(国際家具展示会、もしくは見本市)が開催されます。マルムステン校は家具デザイン科を中心に出展します。僕の在籍する家具製作科はストックホルム市内にある学校内で展示をしますので、ご興味のある方、ちょうどその頃にスウェーデンへ来られている方はぜひ! 街中のインテリア、デザイン関連ショップでも特別企画が催されるのでなかなか面白いと思います。

・市内のマルムステン校所在地(右側下にあるskriv ut karta i A4-storlekをクリックすると広範囲が表示されます。) 住所はRenstiernasgata 12です。

さて今回もいつもの通り、前回からの続きです。1年生のマルムステンの机を製作する課題や、2年生の椅子製作も終盤へ突入しています。そして11月の終わりからは計20回の集中講義が始まりました。年明けのテストはこの講義に関する内容から出題されることになっています。

机天板の縁となる白樺を貼り終わりました。厚さ3.5ミリ、長さ2.8メートルの薄板を曲げながら2層(2周)接着していきました。始点と終点(見づらいですが2層とも同じ場所)は直角ではなく約10度傾けて、断面が密着するように加工します。


上下の余分な部分を鉋で削り落としました。鑿(のみ)や紙ヤスリで削る事も可能でしょうが、この部分は鉋(かんな)で作業をする事がベストと判断しました。天板上の突き板(薄い板、ベニア)を傷つけないように気をつけないといけません。


裏面側の角の加工も鉋で行いました。紙ヤスリで丸めるとしても、この状態からだと素早く作業が進みます。


彼女が作っているテーブルも完成間近になりました。洋梨の木目は詰まっている(細かい)ので、紙ヤスリによってつく細かい傷でも目立ってしまいます。紙ヤスリの荒さを替えながら磨き上げていきます。突き板の木目の方向にあわせて作業をするので非常に時間がかかり、根気が必要です。この段階では1000番の紙ヤスリを使用しています。


彼の製作中のテーブルは、脚の周りにも突き板を貼るようになっています。内部は4分割された松材で、外側にローズ・ウッドの突き板を貼っています。単純に思える脚の加工ですが、実際は表面に貼る突き板に影響が出ないようにさらに様々な工夫が内側に隠されています。


木工理論の講義が始まりました。約3週間で20回の講義が行われました。内容は様々で、木の使用法から、木に関する産業、文化までの基礎的な知識を学ぶ事がこの講義の目的です。年明けには筆記テストが行われ、合格すると5単位が認定されます。


しばらく前の撮影課題の発表です。講師は現役のカメラマンなのでなかなか時間がとれず、この日まで遅れていましたが、各々の写真を見ながらどの様な考えで撮影したかを話し、皆で意見交換をしました。顧客やバイヤーへ売り込むことの出来る写真とはどの様な物かを学びました。


毎週金曜日の午後に行われる美術の時間です。今回は大判の紙に描きました。学生の立ち位置が変わる事によって、モデルの角度も変わっている事がよく分かります。


木工理論の講義が始まりました。約3週間で20回の講義が行われました。内容は様々で、木の使用法から、木に関する産業、文化までの基礎的な知識を学ぶ事がこの講義の目的です。年明けには筆記テストが行われ、合格すると5単位が認定されます。


年明けからの課題の一つが発表されました。ストックホルム中央駅前にある教会からの注文家具を製作します。牧師室内に祭服(礼拝で着る服)を収納できる戸棚を作って欲しいと依頼されました。春頃に行く予定のデンマーク旅行の費用となるように1年生5人で共同製作します。


木目(もくめ)に沿って紙ヤスリで表面を整えていきます。木目が交差する場や、天板中心付近は気を遣います。


これは練習用に作った天板で、塗装仕上げの試しをしてみました。シェラックを下地とし、蜜蝋(みつろう)で磨き込みました。


木に関連する工場の見学も木工理論の授業課題の一つです。家具製作科の僕たちは材木を加工する工場へ行く事にし、レンタカーを借りて4時間かけてストックホルムの南にある工場へ走っていきました。


敷地内で平積みにされている原木たちです。確かこれはマホガニーの原木。


原木から板を切り出す時に使用する帯鋸です。この部屋では刃の研磨が行われています。


丸太からカットされたばかりの突き板で、この後に乾燥工程が待っています。


研磨中のこの刃を使って突き板をスライスします。固定されている材を振り下ろしてスパッとカットし、0.6ミリから3ミリくらいまでの突き板が出てくるのを見るのは壮観です。


こちらは無垢材を加工後に乾燥させている倉庫です。大量の材が積まれているので、もし、地震がある国だったらと思うとゾッとします。


この日は楽器の材料としての木についての講義。講師はギター製作科の先生です。材種(柔らかい木から堅い木まで。参考に合板やMDFも。)によってどのような音がするかを試聴。木琴(もっきん)を想像してください。


ギターの構造解説。持っているのはアルトギターです。形状が通常と異なるのは、12弦もあるので持ちやすさ(弾きやすさ)を考慮しているからだそうです。


家具座面張り科の一年生が張り替えている椅子です。ストックホルム市庁舎から依頼されました。


家具製作科の1年生の一人は、僕と同じく丸テーブルを製作しています。彼の製作する机は少し小さめで脚の構造も異なります。中心の接合部を120度に加工して接着します。接合法はビスケット・ジョイントの様なテクニックを使っています。


紙ヤスリで仕上げた後、今度はシェラックで下地を作り、デーニッシュ・オイルを塗り重ねます。完全に乾くまでには一晩かかるので仕上げだけで数日が必要になります。


これは僕が製作している机の脚となる支柱です。6角形に加工した上部が天板の支えとなる部位に固定されます。


その支柱のフォルムを図面通りに加工。穴が掘られている部位に脚がつきます。


これも講義のひとつ。ボートなどの造船を仕事にする講師がやってきました。彼はマルムステン校を卒業した後、木を曲げて船を造ることに興味を持ち仕事としたそうです。


希望者を募って日本から木工道具を購入しました。家具製作科の先生は特別注文で、普段は店頭に並んでいない鑿(のみ)を購入しました。これらの道具は購入後すぐに使用する事は出来ず、冠(後端の輪)の固定や、刃の研ぎを行う事(道具の仕立て)で初めて使用可と言えるようになります。


机の脚3本をフレース盤(フライス盤とも言う)で加工しました。カペラゴーデン(僕が2003年6月まで在籍していた学校)では手加工でやっていた作業ですが、今回は機械を使用して作る事にしました。


この機械を使う作業は、治具(写真にあるような道具や型)を準備してしまえば加工自体に時間はあまりかかりませんが、正しい治具と、正しい作業法(刃への進入や、回転方向、材の固定法など)をとらないと、とても恐い思いをすることになります。手道具では切り傷で済んだとしても、このような機械によっては一瞬で指が飛んでしまうのです。手道具、機械共に同じ加工を出来る事は大事ですが、それぞれの特性をしっかり把握し、もし不測の事態が起きても怪我をしないようにする事が求められます。
例、

1.もし、材が弾けたとしても、飛んでいく側にいない事。よくて打撲、悪くて内臓破裂、もしくは・・・
2.何かが起きた時に怪我をしないような行動(加工時は特に力を入れる方向)をすること。スポーツと同じく作業前のイメージ・トレーニングはかなり有効。

と、ここまで書く事から想像がつくように、僕はこの作業中にヒヤッとする出来事に遭遇しました。運良く材をダメにしなかったことよりも、怪我をしないで済みホッとしました。“不測”とは言っても実際は予測可能な事柄が多いので、材をダメにしても怪我をしない為の準備は最重要です。材は新たに用意できても、指はそうはいきませんからね。

ギター製作科の一年生が“完成したよ!”と入学後、最初の作品であるギターを見せに来ました。その場で演奏してくれましたが素晴らしい音色。いつも思いますが、楽器を演奏できる人は尊敬してしまいます。彼はさらに作り出す事も出来てしまいます。


机の脚に丸みを持たせる為に加工(ヤスリや鉋で)しました。満足できるフォルムにはなったと思います。


この日は椅子やソファーなどのクッションについての講義。講師は家具座面張り科の先生。写真では一人がけのソファー座面内のスプリングについて話しています。


2年生の一人が作っていたウェグナーの椅子がついに完成しました。全体が合板から作られている近代的な椅子です。


1ページで紹介した1年生の机も接着をし、形が見えてきました。表面に貼ってある突き板が様々な方向を向いているのがお分かりになるでしょうか?


支えに六角形に穴を開けて支柱を固定します。位置決め中


スーパー・レッジェーラも完成が近づいてきました。彼は3脚まとめて製作しています。この後に座面を編む事になります。僕の実家でも一脚所有していて、購入時に“もし、座面の修復が必要になった場合、日本では治す事ができない”と言われましたが、そのような事はないと僕は思います。


最後の講義はマルムステン校の校長が行いました。“デザインとは?”“物作りとは?”がテーマ。手前にある椅子は、マルムステンの代表的な椅子。俗に言うウィンザー・チェアーですが、彼はスウェーデンとフィンランドの間にあるオーランド島の古い民家にあった家具からこの椅子をデザインしました。真ん中はシェーカーの椅子。奥はマルムステンの名前が初めて知られた“市庁舎の椅子”です。


そして冬休みが始まりました。学生達は皆、家族の元へ帰ります。僕たちは息子(生後7カ月)を連れて初めての帰国です。エコノミークラスでチケットを購入していたのですが、子供がいるからかアップグレードされ座り心地の良い席をあてがってもらう事ができ、ベビーベッドも正面の壁に取り付けてもらいました。しかし息子は機内の全てに興味津々で僕に抱っこされて機内をずーっと散歩。たった一時間しか寝てくれませんでした。


もう、お分かりだと思いますが、実は机の製作は終了していません。今後も少しだけ作業が続きます。他の数人も年末年始に登校すると言っていました。間に合わなくても減点にはなりませんが、新しい課題は始まってしまうので今後が大変になってしまいます。年明けが締め切りでしたが、間に合わなかった者は完成した時点で発表をすることになっています。とりあえず今の僕はすぐにせまっているテストの事で頭が一杯です。ではまたー!

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!