MENU

スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2004.02.25

第15回 製作、国際家具見本市、展示会、取材と大忙し(前編)

こんにちは!須藤 生です。今回は少しレポートが遅れましたが、内容は盛り沢山になりました。年末年始に日本へ一時帰国をし、妻と息子を残し僕だけ1月5日にスウェーデンへ帰ってきました。本当はもっと長く日本滞在したかったのですが、7~8日に行われるテストに出席をしなければいけなかったのです。試験範囲は講義で学んだ事も含めて、これまでの全てです。スウェーデンで初めて受けるテストで、一体どの様な問題が出るのかかなり心配でした。テスト翌日にはNHKラジオの収録もあり、なかなか休む暇がありませんでした。どなたか聞かれた方はいらっしゃいますか?

これは2日目のテストの様子。部屋はそれほど広くないので3人用の机に交互に向かい合って座る様に指示されました。問題は全部で15問。問いに対して、全て筆記(必要ならば図解も)で答えなければなりません。時間は14時から18時まで。問題はすごく難しいという程ではないのですが、「あれ、単語はなんだったっけ?」や文法をブツブツと考えたりしている僕はなかなか先に進みません。それは良いとしても、時差ボケの方が辛かったです。テスト時間中は日本は真夜中なので、頭がボーッとしてしまいます。


そして、僕は完成間近の机も製作しないといけません。他の一年生はクリスマス休み中も何度か登校し、仕上げていました。作業をするとはいえ、新たな課題に関する講義も始まってしまい、作業時間はあまりないため、週末に作業をすることになりました。この写真はちょうど机の支柱に3本の脚を接着したところです。


これは天板の支えとなるパーツです。中心の6角形の穴に先ほどの写真の支柱が固定されます。ピタリと密着する様に加工してあります。この部分の加工精度はとても重要です。


こちらは完成間近のギター。ギター製作科の学生は現在3学年あわせて7人の少数精鋭です。学生達はスウェーデンの著名なギター製作家Georg Bolinのギター製作を中心に、楽器の製作を学びます。Bolinのギターはとても高い評価を受けていて、日本からの注文もあるそうです。


2年生の1人が製作しているのはマンダリン。彼女はマンダリン製作を得意としているそうです。写真をよく見ると分かりますが山型に盛り上がっています。右下にある極小の鉋(指先でつまむ程の大きさ)で少しずつ削りながら形を整えていきます。


同じマンダリンの枠を作っています。上には図面と、アクリル板の型、そして先ほどの写真の対面になる部材が見えています。まだ鉋で形作られる前の状態で荒削りのままなのが分かりますか?


これは家具修復科の学生が象嵌(ぞうがん:数種の木を使って模様や絵を表現する技術)の実習で製作した物です。僕が在籍する家具製作科でも象嵌の実習があります。


次の課題“無垢の木のみの戸棚”が始まりました。まず、皆との話し合いで“音を感じささせる物”というテーマが決定。デザイン発案を系統立てて学んでいきます。まずは、何が僕たちの作りたい家具に必要で、何がそうではないかなどを書き出す事から始まります。この過程を終えてから、アイデア画を描き始めます。この課題で製作する戸棚は、夏に外部で開かれる大きな見本市に展示される事になっています。見本市の運営組織からの提案と連動している課題になっています。


それぞれがリストに書き出した要素に見合うデザインを考えます。この段階で言われたのは、落書きの様なスケッチだとしても絶対に捨てないように、という事でした。たくさん考えていく中で、またその段階へ戻ってくるかもしれないし、翌日には良い案だと気づくかもしれない、何かあるかもしれないのだから消しゴムで消さないように、というアドバイスです。


数日後、それぞれがアイデアを発表。具体的な構造まで描いてきた者や、外観を考え皆に意見を求めたりとスタイルは様々です。僕は初期段階から順番に絵を見せながら話しました。“音を感じさせる”というテーマですが、各々の解釈は異なります。視覚でそう感じる物もあれば、使用する時の音に注目した物など、一見しただけでは分からないかもしれません。僕は逆の発想で音が無い状態、“静寂”から考えてみました。


一週間、機械の整備を担当する仕事が順番に回ってきます。他の学生が登校する前に機械達を調整し、磨いたり、刃を洗浄もしくは交換します。雑用ですが良い仕事をする為にとても重要です。彼が持っているのはバンドソー(帯鋸)の替え刃です。


また時間を見つけて机の製作を進めました。楔(くさび)を打ち込んでしっかりと固定し、十字型の支えと脚部を接着しています。


天板にネジで固定してみました。ここは接着ではなく、真鍮(しんちゅう)のネジでしっかりと留めます。


ちょうど街へ出ようと思った時に普段とは違うバスが走ってきました。1月からストックホルム内で走りはじめた水素燃料のバスです。水素は有害物質を排出せず、水だけが生成される非常にクリーンな燃料で、バス後部上面から水蒸気が吹き出ているのが見えます。


バス内部はシンプルにまとまっています。他のバスと同じく、出入り口側の車高が沈み、乗り降りがしやすくなっています。このバスは、まだ市内巡回ルートを試験走行中で、4月までは無料で乗る事ができるそうです。ちなみにストックホルム圏内のバスは赤ちゃんだけではなく、ベビーカーを押している者も無料です。もちろんベビーカー用のスペース(3台分)も設けられています。


この時期のスウェーデンは雪がすごいというイメージがあると思うのですが、実際はそれほどでもありません。日中も大抵はマイナス数度くらいです。もちろん、もっと北へ行くと極寒です。


これまでと同じように、材料の買い出しに材木屋さんへ出向きました。


2月4日から始まる国際家具見本市へマルムステン校も出展しました。今年の出品は家具デザイン科の作品が中心です。僕たちの机はなぜここに出せないのか? と、去年、皆で聞きました。答えは、僕たちの家具はオリジナル作品ではないから(カール・マルムステンのデザイン)という事でした。マルムステン校は基本的に新たに作り出された物を展示する方針だそうです。まだ分かりませんが、来年は僕も出品したいと思います。


そして机の仕上げ。最後に特別配合した蜜蝋(みつろう)を塗り込みました。日本の和蝋も混ざっていて固い塗幕が出来上がります。綿布で磨き込みましたが今ひとつの仕上がりで悩んでいたところ、ストッキングで磨くと良いと教わりました。早速、街に買いに出かけました。僕がどれにしようか色々と見ていると、店員さんが来て「どんな物を探しているの? こういう腰までの長い物や、膝丈の短いのもあるよ。」と聞かれてしまいました(笑)。僕が家具を磨くのに使うんだと言うと、驚きつつ感心していた様子。効果はなかなかで、満足いく出来になりました。もっとデニール値の低い(細い糸の)ストッキングを選ぶと、さらに良かったかもしれません。


僕たちは国際家具見本市会場で展示はしませんが、校内に設けた展示場で作品を公開しました。これはその準備風景。作品を載せる台を作り、塗装しています。


2月4日の朝。マルムステン校の校内展示は午後のみなので、午前中に最後のセッティング。8日まで国際家具見本市と合わせた日程で開催しました。


もちろん僕の机も展示しました。スポットライトの光による影と天板の模様の輝きの対比がとても綺麗です。他の皆の作品は、次週のレポートで紹介します。


妻と息子も見に来てくれました。現在、僕たちの自宅には食事用の机がないので、この机が食卓になる予定です。でも、ちょっともったいないでしょうか(笑)。息子のベビーカーには羊の毛皮で出来た中敷きが敷いてあります。これはポケット状になっていて、その中に子供を入れることで外気を防ぎます。


学校での展示を見た後、3人で国際家具見本市会場へでかけました。到着時はすでに15時になっていました。これは入り口近くの特別展示。たくさんの糸が天井から吊されていて一つの空間を作りだしています。出入り口はなく、好きな場所から糸をかき分けて内部へ入るようになっていて面白いです。空調や、光の動きで糸が波のように揺らめくのが、とても綺麗でした。ユラユラする物が好きな僕の息子にも好評。


マルムステン校の展示ブース。倉庫をイメージしていて、パレットを大量に借りてきました。どの作品もプロトタイプと言うにはもったいないほど、非常に完成度の高い物ばかりです。右下のカバン状にして持ち歩く事の出来る収納ケースは、スウェーデンのテレビ番組で大きく採り上げられたそうです。デザイン科1年生の作品です。(写真撮影 本田 恭子)


この夏まで僕が3年間学んでいたカペラゴーデンの展示です。久しぶりに会った皆と話してあまりじっくり見ていないのですが、著名な椅子を製作し展示していました。テキスタイル科の作品を展示に使う事で、他の学校には見られない独特の空間を作りだしています。


先ほどの糸で囲われた空間内です。お出かけ中とはいえ、息子の食欲はいつも通りです。このスペースにあった幅広の椅子は授乳にも、離乳食を食べさせるのにも最適な大きさで気に入りました。


2週連続の次回は、日本の雑誌社からの取材を絡めて、ストックホルムにあるテキスタイルの学校やマルムステン家具店、そしてデンマークの巨匠(誰でしょうか?)の娘がマルムステン校へ見学へ来たことなども紹介したいと思います。

ではまた。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!