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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2004.05.19

第18回 象嵌(ぞうがん)、木彫実習

こんにちは、須藤 生です。メインのコンピュータであるeMacのディスプレイが壊れ、修理中に今度は予備のノートパソコンまでハードディスクが壊れるという不運に見舞われ、レポート執筆が大幅に遅れてしまいました。でも、内容は盛りだくさんですのでゆっくりご覧下さい。3週続けての公開ですが、後半には特に興味深い写真が出てきます。お楽しみに。

前回紹介した特別講義たちに続いて、今度は木象嵌(ぞうがん)の実習が行われました。木画(もくが)と言うこともありますが、様々な樹種の木を組み合わせて表現する技法です。1300年代に近代的な象嵌手法がイタリアで始まり、一気にヨーロッパ中に広まりました。僕たちが学んだのは1700年代後半に新しく考案された技術で、それまでの手法との大きな違いは、木の境目がピタリと一致することです。


パーツごとに切り出して組み合わせる手法は、象嵌での基本技術ですが、精度(はめ合わせの)が落ちるという欠点があります。まず最初の課題では複数の樹種を使いながらどう対応するのかを学びました。図柄はマルムステンの家具にも用いられているシンプルな絵です。


この手法では必要なパーツを一度に全て切り出します。その為にまずパーツごとの突き板(今回は0.5ミリくらい)を選び、木目を考えて重ね合わせます。重ね合わせている板に隙間が空かないよう密着させる事がコツです。この図柄では全部で6層になります。


ナイフや手動の糸鋸で切る手法もありますが、これは電動の糸鋸。ミシンのように足踏み式のコントローラーでスピード調節の出来る物が加工に適しています。糸鋸での挽き方(ひきかた=切る事)ですが、普通に加工すると、正確に加工したとしてもパーツの間には必ず糸鋸の厚さ分の隙間が空いてしまいます。


そこで考えられた手法が、このように台座を傾けて挽き抜くことで上の層、下の層との微妙なズレが生じ隙間無くはめ合わせる事が可能になります。日本(箱根)独特の技法と言われることもあるようですが、実際はヨーロッパでも同じ事が考え出されています。

左のフライパンに砂を入れて熱し、その中に木のパーツをつけ、焦げ目を付けるという技法があります。この様にして影を表現し、立体感を持たせる事ができます。


ただし複数の層になっているので、糸鋸をどのように通すかをよく考え、下準備をしておかないと、全てが密着するように加工する事はできません。


これは僕の初めての象嵌作品。糸鋸での加工が安定していない為に、隙間が目立ちます。下準備、加工(鋸の進ませ方)が適切だと、隙間無く完璧に密着させる事ができます。さらに僕の失敗は葉の木目方向。赤い線の様にするつもりだったのですが、準備中に向きを間違えていたようです。納得いかないので、もう3、4回同じ事を練習がてら繰り返しました。最後にはずっと出来が良くなりました。


次の課題は風景画などの複雑な図柄。図柄は各々が自分で見つけるように指示されたので、僕は版権フリー素材集から見つけ出しました。


今回の手法では挽き抜きの順番を考え、奥にあるものから加工していきます。正確な位置を木にコピーできるようにカーボン紙を使っています。


カーボン紙を使って描いた線に沿ってパーツを挽き抜きます。木の自然の色だけを使って表現することもできますが、僕は染め上げられている突き板をたくさん使用しました。


裏側(完成時は表になる)はこの様に、極薄の突き板テープが貼られています。


材種の選び方にまだ課題はありますが、なかなか良い物になったと思っています。


拡大。一部失敗もありますが、密着度も高く加工できました。


翌週からは木彫の実習。先生はロシア出身です。粘土を使って作業時の要点を教わります。木でも全く同じように加工しますが、粘土の方がずっと柔らかいので工程チェックも容易です。


バナナが製作課題。説明時と同じく、まずは粘土で形を作り木を加工し始めます。


加工をしてよく分かりましたが、単純な形状のバナナでもたくさん見るべき点があります。


ちなみにこのバナナは、僕の息子の遊び道具になりました。


次の課題は木の板に浮き彫りさせる手法です。図柄はマルムステンの作品にも使われている草花。


まずは手持ちのフレース機械(もちろん手作業でもOK)で、周囲を大まかに削り落とします。


様々な弧の刃物を使い作業をしますが、葉の重なり方、風にたなびく様子など、立体感は各々で判断し表現します。


これは残念ながら僕の作品ではなく、1年生の5人の中でもダントツで上手だった学生の作品です。僕などがチョコチョコと加工しているのに、彼はスパッと一発(笑)


次回は製作の合間に散歩に出かけた街の様子や、授業の一環で訪れた屋外美術館スカ ンセンやお城の紹介をしようと思います。

ではまた次回!

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

子育て記

日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!