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スウェーデン木工留学記

ストックホルム編

2006.06.21

第46回 スウェーデン最高峰の職人試験。(後編)

こんにちは!スウェーデンの須藤です。こちらは夏らしい良い天気が続いています。短い北欧の夏を存分に楽しみたいと思います。さて、今回も前回(第44回 / 45回)に引き続き、職人試験のリポートです。無事に完成するのでしょうか~?

ちょっと隙間が見えたりと完璧ではない出来でしたが、とりあえず良しとしました。なぜなら、締め切りまでもう一週間も無かったからです。この頃には夕食も学校で食べ、妻からは徹夜OKの許可も(笑)。

しかし、僕は無理して集中力が切れる方が絶対に良くない(例、機械作業中の怪我)と思い、終電近くの電車で帰宅していました。家族は寝静まっていますが、やっぱり自宅が一番です。


下段の引き出しには鍵がかかるようになっているので、受け側の金具を取り付け。


扉もサンドペーパーで仕上げます。


取っ手を固定後に木面と合わせるように、さらに仕上げます。


引き出しの接着前に、ある程度まで表面状態を仕上げました。


枠を接着した後、底板を接着。歪みが出ないようにする事が大事ですが、僕が選んだ引き出しのタイプは少しの変形ならば許容できる構造になっているので、気が楽でした。


背板の接着。少々、大袈裟にも見えますが、全体に圧が加わるように工夫しています。大きい物を作ると、こういう時は大変です。


接着後の引き出し組み手部分を加工。直訳すると“半フランス式”という構造の引き出しになっています。


本体の縁取り加工を開始。まずは加工時に突き板がめくれ上がらないように、加工部との境をナイフ(マーカー)で切っておきます。


手持ちのルーターで5ミリ角の溝を加工。縁取りが施された戸棚はあまり無いと思いますが、意匠を兼ねたテクニックとして選びました。理由は二つ。万が一、本体の角の接着面が密で無くても隠せる事。


そして、背板は本体と隙間無くピッタリと接着する必要があるのですが、この方法を選ぶと背板の調整は縁取り分に収まる(前の写真の様に隙間が空いていても良し)ようにすれば良く、調節に時間をかけずに済むのです。ある意味、手抜きをする為の技かも。

とは言っても、縁取りの加工には同等かそれ以上の時間がかかるので、決して手抜きとは言えません。


扉の取り付け。写真の様に仮固定し、まずは扉の上下左右の隙間を調整します。職人試験では扉、引き出し周りの隙間が一定な事も評価対象になります。その後は他の金具と同じくネジで固定し、ヤスリで削ります。


締め切り(審査日)前夜。この写真を撮ったのは夜中の1時半。審査時に一番良い状態になるように引き出し等、各部の調整をします。この時点で僕は合格点を取る事が最大の目標になっていたので、あまり細部にはこだわりませんでした。不満な点はたくさんありますが、不合格にはなるはずは無いと前向きに考えていました。


そして審査日の朝。審査時に必要な書類等を揃えて待機します。今回、審査を受ける者は4人。同級生は5人なのですが、残念ながら一人は途中で脱落しました。


しっかりと安定した台座を用意し戸棚を設置


扉の取っ手と、象眼の意匠。


引き出しの取っ手



引き出し内部


組み手部


本体の縁取り。前面側の角は手道具で45度に加工して接着しています。


縁取りはこの戸棚の大きな特徴の一つ(カエデとWengeのコントラスト)ともなっています。


写真説明


ハッセルブラッドで撮られた写真にのみ見られる、二つの切り込み。


審査官によって評価が書き込まれる採点表が並び、僕たちは退室。審査時は審査官のみになります。項目毎に最高5点の0.1点刻みで評価されます。全ての平均点が3点を上回れば合格です。


この日は天気も良く、綺麗な光が室内にも入ってきていました。とりあえず、一区切りとなりホッとしました。


受験者である4人でちょっと早いランチを食べに近所の公園へ。最高に気持ちの良い昼寝日和でした(笑)。


休養を取った数日後、カメラのレンズなどを収納する為に引き出し内部の仕切りを作りました。これはA0の製作図面には描いていない物なので、審査日に含まれている必要はなく後回しにしていました。


スウェーデンのカメラ、ハッセルブラッドを収納する戸棚なので、カメラを置いて撮影をしました。


これはハッセルブラッド社が1948年に発表した最初のモデル。カメラ下側は鏡の様に姿が写り込んでいます。


レンズ等を並べてみました。もうちょっと仕切りの構造には熟慮が必要そうですが、この段階までこぎ着けて満足です。


下段の引き出しにはプリントした写真を収納しています。


戸棚の名前は“HASSELBLAD”。今度はハッセルブラッド社へ報告がてら、コンタクトを取ろうと思います。喜んでもらえると良いなあ。


ところで結果はどうだったのかって?

無事に合格しました。評点は期待していなかったのですが、なんと5点満点中4.8点と予想以上に良い評価をもらえました。職人試験をパスする事はストックホルムでの3年間の大きな目標だったので、大満足です。11月にストックホルム市庁舎のブルーホール(ノーベル賞で有名な場所)で家具職人の資格授与式が行われ、正式に職人資格を得られる予定です。


職人資格を得る事が出来るとはいえ、正直に言いますとまだまだ分からない事の方が多いというのが現状です。第4回レポートでも書いていますが、職人資格とは“一定以上の知識と技術を身につけている事を証明するもの”であり、決して名人、達人、素晴らしい技術を持っている証明では間違ってもありません。これからも学ぶ事ばかりですが、また少しずつ前進していこうと思います。

まるで今回が最終回のようですが、まだまだ続きます(笑)ので、これからもよろしくお願いしますね。

木工留学記

 カペラゴーデン編

メルマガで配信していた留学記です。主にカペラゴーデン留学中の1999-2003年頃の事柄を紹介しています。

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日本とは異なるスウェーデンの出産育児を絡めながら、2003年の長男誕生前後を紹介しています。

木工留学記

 ストックホルム編

カペラゴーデンの終わり頃と、ストックホルムのマルムステンCTDでの事柄が中心です。2003年からJDN(ジャパン デザイン ネット)上で7年間、連載していましたので読み応えがあります。

本になりました!

スウェーデンで家具職人になる!
税込み価格1890円
須藤 生著 早川書房発行
ISBN 978-4-15-208925-0

当サイト上に掲載している内容などを新たにまとめ直し、さらには書き下ろし記事もたくさん追加しています。写真だけではなく、図面なども豊富に盛り込んでいます。興味深い内容になっていると思いますので、ぜひご覧ください!