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第42回 - これって挫折?-

 

さて、今回は僕にとって大きな転機になった話です。

2002年秋、前号で紹介した戸棚の製作と並行して、職人試験で製作する家具の試作検討をしていました。ちょうどこの頃に妻の妊娠が判明していたこともあり、僕は子供が将来に使用する家具を作りたいと考えました。3,4歳くらいで使用できる子供家具で、職人試験に必要な条件(引き出し、扉など)を満たし、シンプルで分解も可能な物を考えることにしました。

 材料は松。格安の材料ですが、触り心地、柔らかさなどは子供家具にとても適しています。楔(くさび)を使用することで、分解可能になっています。これらのアイデアはデンマークの家具デザイナー、ハンス・ウェグナーがやはり考えた子供家具と共通する物があります。

 当初はIKEAなどの家具メーカのカタログを片っ端から調べ、子供家具の基本寸法を推定しました。成人向けの家具は日本と欧米では体型差を考慮している為にサイズが異なりますが、子供の時点では大差ないと判断しました。

 大ざっぱな試作を作ってから、椅子の背もたれや、机の脚の処理などのデザインを決めていきました。卓上には2段の引き出しと扉が付いた箱を置いています。イメージとしては、これらはオモチャ箱になり、床で遊ぶ時などにはそのまま持っていくことが出来ます。

 そして11月始め、他の学生と共に中間発表が行われました。現役のデザイナーと建築家を招き、意見をもらうことが大きな狙いです。ここで僕が言われたことは、職人試験の為の家具ならばもっと難易度の高い物を作る方が良いのではないか?これは家具としては問題ないが、受験作品には向かない物かもしれないということでした。翌日、もう一度先生達と相談することにしました。

 さて翌朝、木工科の先生二人と話し始めました。しかし二人の様子は少し普段と違っていました。子供家具をどの様にするかという話を少しした後、彼らは唐突に「今年は受験を待つ事を勧める。」と言いました。

 彼らの考えと僕への提案をまとめると、
・僕の作ろうとしている子供家具は職人試験作品(カペラゴーデンの学生として)には相応しくない。もっと難易度が高く技術を見せつけられる物にしてほしい。
・他の3年生と比べて、僕は技術、知識、経験などがちょっと少ない。
・他の皆は3年次が始まってすぐから試験課題に取り組んで熟慮しているが、僕は練習の為の戸棚(前号のメルマガ参照)を作ったりしていて、他の皆と比べると試験へ向けた準備が少ない。(戸棚の製作がいけなかったという意味ではない。)
・職人試験締め切りと、僕の妻の出産予定期が重なっている。締め切り直前の学生は精神的にかなり参ってくるのが、毎年の常だから家族へのリスクがある。
・もう一度、課題作品を一から考え直すのではもう遅すぎる。(時間的には無理ではありませんが、他の学生と過程が異なることになる。)

 と、これらが今回は受験をするのを留まる方が良いと考えた理由でした。もちろん僕は考えもしないことだったので、ショックもありましたが冷静に考え、いろいろと議論をし、僕の考えていることや、やり方をたくさん話しました。当日と翌水曜日には妻、日本の父や他の3年生とも話をし、たくさん考えました。

 3年生などと話してよく分かったことはカペラゴーデンの職人試験は、他の学校や工房で受けることの出来る職人試験とはレベルの次元が違うそうです。先生も彼ら学生も決まって言うのが、職人の肩書きはスウェーデンでは重要ではないので気にするなということ。カペラゴーデンの卒業証書の方がずっと強力で、試験に合格しても仕事が簡単に見つかるわけでも給料が上がるわけでもないそうです。

 僕はそれに対し、日本ではドイツなどヨーロッパの職人、もしくはマイスターなどの肩書きを持っているだけで、技術の有る無しにかかわらず有利になり得ると答えました。たくさんの人が木工を仕事に選ぶ中で、残っていく為にもステイタス的な物をもっていると強みになるとも言いました。実際は資格の取得後は本人次第ですが、良いか悪いかは別として、少なくとも日本ではある程度の肩書きとしての力を持っています。この辺は話し始めると長くなるのでジャパン・デザイン・ネットのレポートでもご覧になって下さい。

 木曜日に再度、先生二人と話をしました。最初に伝えたことは、受験に未練はまだあるが、今年もう一年間、実力アップに努めていずれまた試験に挑戦できるようにするのは悪くないと考えているということでした。試験の事を考えずに、生まれてくる子供と妻の事だけに集中できることも大きな利点です。

 ただし、僕はスウェーデン人ではありません。カペラゴーデンを卒業したら、もうチャンスは無いかもしれません。そこでカペラゴーデン卒業後に職人試験を目指すとしたら、スウェーデン最高峰の学校カール・マルムステン・スコーラしか考えられないと伝えました。ここならばカペラゴーデンと比べても遜色なく、今回の職人試験を待つだけの意味があると考えました。

 先生達はこの様な僕の考えを予測してはいなかったようですが、卒業までの7ヶ月間、良い仕事を成し遂げることが出来たら優秀な青年だと推薦すると返事をもらいました。逆に彼らからの提案は今年の残りをカペラゴーデンとしてのクオリティーで技術、時間を費やして欲しいとの事。それに見合う課題を問うと、マルムステンの戸棚の製作を勧められました。この製作に必要な技術は、カペラゴーデンで目指すべき職人試験と同等の難易度で、製作時間は450から500時間くらいが理想だと言われました。卒業までにさらに家具図面製図と、マルムステンの椅子製作も僕自身への課題としました。

 当日はショックでしたが、前向きな性格のお陰かあっさりと気分転換し、試験を見合わせることは僕にとってプラスになるはずだと考えるようになりました。というわけで、しばらく寄り道をすることになりましたが、試験へのストレスは無くなり新たな目標が出来ました。

 この出来事は僕にとっての挫折や、壁に突き当たったという趣が強いのですが、いずれこれは僕にとってのステップだったのだと言えるようになりたいです。

 次回はその二日後に日本から届いた問い合わせについて紹介します。とても貴重な経験ができました。

子供家具のイメージ画。
大まかな試作。机に比べて椅子が大きいです。
背もたれに少し丸みを持たせています。
だんだんとデザインがまとまってきました。